やさしい荘子入門
はーい、僕、荘子。中国人だ。それも、結構、昔の。
僕が言いたいことは、ただひとつ。万物斉同。これだよ。
字面は易しいから、内容も易しそうに見えるだろ?
そうだよ、大当たりだよ。
万物は、すべてのもの。
斉同の「斉」は等しい、「同」は同じだ。
そう、すべてのものは、みな同じ、ってことだ。
簡単だろ?
日本だと、万人が斉藤だって聞いたけど、本当かな? 佐藤や鈴木も多そうだけどね。えっ、オヤジギャグですか? そうですか? だって、中国3000年も昔の、僕だから、そりゃしょうがないな。
証明してみろ?
待ってました。
それでは、想像してみよう。何しろ壮大な実験だから、3000年前には想像するしかなかったのさ。
さて、今、君は、大きな鷲の背中に乗ってるところだ。
大鷲が翼を広げると、四海をまたがる、そんなでっかな鷲だよ。
で、そいつが、一羽ばたきすれば、ほーら、空高く舞い上がって、もうあたり一面、青一色だ。
ちょっと下を見てみよう。こっちもやっぱり、青一色。斉も魏も燕もなければ、猿も人もなし。王もなければ奴もなし。みーんな、同じになっちゃった。
こういう大きな、視点から世の中を眺めれば、まあ、なんてくだらないことで、揉めてる事やら。あきれて、山の中で猿とたわむれてるほうが、よっぽどましだってこった。
まあ、それはおいといて、今、見たとおり。全部、同じだっただろ? どこかに差異を見つけられたかい? きれーな、青だったじゃないか。これが、世界だ。
で?
ここから、はじめて、考えてみれば、すべてのものは、見方や足場を変えれば、実は、すべて同じ価値を持っているってことがわかるだろ? まず、そいつを了解しようや。
ちょうど向こうから、恵子がやってきた。女じゃないよ、ケイシと読むんだよ。ちなみに職業は詭弁家だ。僕の論争相手だが、ネはいいやつだ。
おい、恵子のおっさん、浮かない顔してるが、何がそんなに気に食わないんだい?
「いやさ、荘子よ、聞いてくれ」
よし牛テンプレじゃないだろな?
「3000年前のオヤジが何寝言こいてんだよ。実は、王様がおいらに、ひょうたんをプレゼントしてくれたんだ。ところが、こいつときたら、ろくでもないひょうたんやろうで、実がさしわたし5メートルにもなっちゃって、何の役にも立たないんだ。おいらは、ひょうたんで、ひしゃくとトックリを作りたかったのによ。そいで、頭きて、切り倒して、燃しちゃった。へっへっへ」
おまえのような、まぬけを、差別主義者って呼ぶんだよ。でっかな、ひょうたん、おおいに結構。なんで、そんな素敵なものを、わざわざ、ひしゃくみたいな、つまらんものにしようなんて考えたんだい? そっからして、だめだめだね。
「さんざんな言いようだねぇ」
だって、考えてもみなよ。お前さんちの近くにでっけぇ、湖があるじゃないか。あそこの景色はきれーだよね。
「ああ、船さえ持ってりゃね」
それだ! 僕が、もしも、そんなでっかな、ひょうたんを持ってたら、2つに割って刳り貫いて、船にして湖に浮かべたね。
普通サイズのひょうたんに価値があるならば、でっかなひょうたんにも価値がある。だって、万物は斉同だ。
「なんか、摩り替えてないか?」
わかってないなぁ。摩り替え可能だってことは、価値が等しいってことだろう? 異なる価値じゃ、交換可能性が無いじゃないか。
続かないで、おしまい
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