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マントヴァから打って変わってイェルサレム。
ヘロデ王は実に複雑怪奇な人であるなぁと思う。
おそらく雇われ(派遣)王様だからだろうが、地位を万全たるものにするために汲々としている。そのため、不愉快極まりないヘロデアスを妻として置いておく必要があるのだろう。
ユダヤ教のラビたちは勝手なことを言い合う。
王を慰めるものは、カエサル(時代は合わないからフリオチェザーレではなく、単にローマ皇帝のような意味だろう)から送られてきた本場イタリアの葡萄酒を飲むことと、歯に衣着せぬ神託を告げまくるヨカナーン(地下牢に閉じ込めてはいるが、むしろユダヤ教の狂信者や妻の送り込む暗殺者から、安全を守るためのように受け止められる)、そしてヘロデアスの連れ子のサロメなのだが、ここでヘロデ王は、サロメに欲情しているようにしか読めない描かれ方をされているが、むしろ、邪心がない美しきものを愛でるという感覚なのではなかろうか。
それが邪心の塊であるとわかったあとは化け物として始末することを選択せざるを得ない。
それにしても、この時代(エレクトラもそうだ)のリヒャルトシュトラウスの金属的な不協和音の爆発は、色彩爆弾のようなココシュカを音楽で10年先取りしたような印象を受ける。聴いていて楽しい音楽ではない。
あまりに良かったので2回目。千秋楽なのが残念だ。
トロシャンやフロンターリも素晴らしいが、やはり指揮(とオーケストラ)が抜群に良い。アディーオのいきなりな速度。
開幕前にフルートが嵐のあたりの練習をやたらとしているなぁと思ったが(確かに、あの場で外すと困ったことになるが)、その場になるとおそろしい緊迫感がある。
しかし、なぜフルートなんだろう? 小鳥が夜中に鳴くわけはなく、風の吹き始めのピューピューを出したかったのか。むしろ悪魔が来りて笛を吹くかも知れない。
金田一耕助ファイル4 悪魔が来りて笛を吹く (角川文庫)(横溝 正史)
リゴレットとジルダの二重唱でトランペットソロが入る(特に最後の部分が印象的)ことに今回初めて気づいた(聴いてはいたが意識に昇るという意味で)。指揮者の音色処理の絶妙さだ。
同じ意味でコントラバスのピッチカートも目立って、リゴレットは良く知っている曲だと考えていただけに新鮮極まりない。
と、その3つの楽器がやたらと気になったが、カーテンコールで指揮者(ベニーニ)がわざわざ、フルート、コントラバス、トランペットを順に称えたので、なるほど指揮者の意図通りに演奏してみせたのか、と感じ入った。(指揮者がオーケストラ全体でなく、個々のソロパートを称えるのを見るのは初めてだと思う)。
子供がおもしろいから観ろというので、歌舞伎町のIMAXシアターでワイルドスピード/ファイアーブーストを観る。
中性子爆弾(とセリフで言っていた)がゴロンゴロンとローマの市内を転がりまくるのが売りの一つなのだろう。確かにおもしろい。が、中性子爆弾と言ってみたかったのか? という爆発の仕方(とんでもない爆風が巻き起こって車がばんばか将棋倒しになっていく。おもしろい、が人間は一緒になってひっくり返るだけ)で、まあ娯楽作品ですなぁ感が漂う。
が、それはともかく、バイクのチェイスで障害物をジャックナイフからくるっと回転させてまたぐところとか気分良い。
退屈は一切しなかった。が、このタイプの映画を観ていて常につきまとう空疎感だけはどうにもならない。
これは抜群。あまりに良かったので、帰りにボックスオフィスで千秋楽のチケットも買ってしまった。
まず、指揮のベニーニのテンポ感が抜群でなんかベルディを聴いているぞ感が楽しい。歌手が相当カデンツァを入れているが(あまりにうまく合っているので指揮者側の要請なのかな?)、それも合わせて気持ちが良いリゴレットだ。金管も(なんか一か所??となったところがあったが)とても良い。とにかく聴いていて気持ちが良いのだった。
サージという人のコスプレ+抽象舞台装置による演出も良い。廷臣(佞臣)たちの動きが良い(とはいえ、ネズミの扮装する演出も好きだが)。
リゴレットのフロンターリは急な代役をものともしない貫禄で良いし、ジルダのトロシャンはとにかく声量があるのは良いことだのような抜群なジルダ。というか、中音域が実に豊かで聴いていて気持ちが良い。マントヴァ公のリヴァスはちょっと英雄的でぶっきらぼうな歌だが悪くはない。というか、妻屋のスパラフチーレも実に良いし、歌手も抜群。
それだけに復讐してやると字幕だけがさびしく流れるモンテローネがちょっと残念。
有楽町でポーランドの作家イエジー・スコリモフスキのEOを観る。なんか久しぶりの東宝東和の映画だ。EOはロバの名前。
ロバが出るからバルタザールどこへ行くみたいな映画かと思ったら、ロバの放浪記という意味ではその通りだったが、違うといえば全然違う。
ロバの目はでかくてうるうるしているから、このタイプの映画には相性が良い。
1.サーカスで最後に立ち上がる役回り、動物虐待反対運動、サーカスは破産してEOは売られる
2.荷馬車ひきの役回りとなる。一緒に飼われている馬に憧れて動き出していろいろ破壊してしまう。
3.次の買い手の子供牧場でそれなりに馴染む。そこにサーカスの相棒の女性が訪問してきてやっぱり彼女が好きとばかりに脱走して後を追う(朝のシーンのフォーカスを手前から後ろに切り替えるところはおもしろい)。この後、邂逅するのかと一瞬思わせるが、女性は一緒に来た恋人と一緒に未練を断ち切って去ってしまうのでそれはないなとわかる。
4.相棒捜索の旅路は続く。夜の森の中がおっかない(狼の死骸)
5.町のショーウインドーを見ているところで消防に捕獲される
6.消防が車を止めてサッカーの試合を見ているところに別の観客が来て綱を外される
7.地元チームがペナルティキックの危機というときに鳴き声をたてたのでボールが外れて(因果関係は不明)地元チームは勝利する
8.祝賀パーティ会場から抜け出て外に出ていると、相手チームが金属バットを持って殴り込みに来る。大惨事。ポーランドのサッカーファンもおっかないなぁ。でもEOは逃げていて良かったと思わせておいて、結局EOも見つかって半殺しにされる。
9.ロボットの爬行シーン
10.なんか野生動物がたくさんいるところで獣医が治療してくれる。売ろうぜというやつがいるがいるが、獣医はおれは医者だ、治療が仕事だ、何言ってんだ? というような会話がある。
11.歩けるようになったので早速仕事をしろと荷車をつけられる。が、動かないので御者がのぞきこんだところを蹴り殺す
12.サラミにするために市場送りとなる。
13.ドライブインで運転手が食事をとるための休憩。EOは外に繋がれる。運転手は移民の女性をナンパ。露骨な誘い掛けを言って去られてしまい、これだからおれはだめなんだよなぁと述懐。そこに謎の男が来て首を掻き切ってしまう。
14.たまたま車が故障した男がドライブインまで延々と歩いてやって来る。繋がれているEOを見つけて、解放して一緒に(ヒッチハイクか?)トラックで家に帰る。玄関から延々と道がある大邸宅。
15.男はイザベルユペールの義理の息子と判明。父親(ユペールの夫)の遺産についての言い争いとかしている間にEOは脱走
16.牛やら山羊やらと一緒になって歩いている。どうも屠殺場への長い道らしい。
17.この映画では動物を傷つけていないし、動物と自然の保護がテーマです(おそらく嫌味)とクレジットが入る。
EOの視界は赤黒と設定しているようだ。どこで挿入されたか忘れたが鳥の死骸のシーンは狼の死骸と並んで印象的だ。どうも死骸はキーとされているように見える(実際、死はテーマの1つだろう)。
おもしろかった。これは映画だった。
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