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子供が図書館から借りて読んでた本がおもしろそうなんで、読み終わるのを待っていっき読み。
遺伝の研究者が、かいこ(くわこ)の幼虫に目玉模様をつける研究から、目玉で鳥をおどかしたり、さらにくねくねで鳥をおどかしたり、という本、とまとめるとそういうもんだが、こりゃいい本だ。
のっけから、進化を研究したいのだが、過去は見ることができないんだから、どうしたら良いか? ここを基点として変化を記録していけば100年後、200年後には研究可能なほど資料も溜まるんじゃないか、ということでかいこの幼虫に目玉模様を獲得させる研究を始めた、とか書いている。なければ作る精神だな。
で、さらにフリッシュ、ローレンツ、ティンバーゲンの研究についてのおもしろ読み物(特にティンバーゲンが詳しいんだが、なるほど、と中盤になって納得する)が来て、いよいよ鳥かかしについての話が始まる。
かいこに目玉を獲得させるなんて研究は役に立たないからやめちまえと言われるのだが、いや基礎研究は役に立つんだ、と言いながら、ムクドリを育てて、かいこの幼虫に目玉をつけてどれだけ食べられることを防げるか(というか視点は鳥側なので、どれだけ怖がるか)の実験に入る。と、でっかな目玉に怖がる=そうか、ティンバーゲンの研究どおり、形より特徴なんだな、と納得して、では本当にそうなのかと、風船に目玉を描いてまた実験。すると鳥にも個体差があって全然気にしないやつから、極度に怖がるやつまでいろいろ。さらに大きさを変える、色を変える、繰り返してみせる、といろいろ実験。で、とにかく効き目はある。というのをNHKの科学番組でやったらさあ大変、知らないうちにそこら中で目玉風船が売られ始めるようになった。特許を取ってなかったからだ。でも、役に立ってるならまあいいか。でも、まだ、効果の持続性について実験してないんだがなぁ、と実験すると、結構あっさりトリは慣れてしまう(このあたりは数値データ付きでいろいろおもしろい)。むしろ、おいしいエサがある場所のマークとして利用されるようになるということがわかり、憮然とする。こいつら、実用新案だの特許出願中だの書いているし、絶対確実とか売り文句をつけてるが、まったく実験してないんじゃないか? と売ってるやつを買って実験すると、慣れる以前に効果がないのがほとんどだったり。さらに、JALとANAが目玉マークをタービンに書く方法で特許を申請して争っているのにあきれたり。
というあたりで、特許をちゃんと取らなければならないようだと気づいて、蛇にヒントを得たくねくね(これもいろいろ実験して、眼でもうろこでも形でもなく、とにかくでっかな筒がくねくねしてると鳥は死ぬほど怖がるということを発見)かかしのときは学会やテレビでの発表前に特許を取っといた。で、効果がない製品ははねるようにした(それで、あまり見かけないのか、と納得)とか。市と協力してカラスを追い払う実証実験したりと、いろいろやりながらも、鳥と人間がいかに共存するか、追い払う方法よりむしろ集める方法のほうが効果的ではないか、では何があれば集まってくるのか、とかの方向に考えが向かう。
で、トキが明治くらいまでは、田んぼを荒らす害鳥の代表で民謡にまで歌われていたのがあっというまに絶滅してしまったというところから、カルガモはどうなるんだとか、カラス(糞を調べるとネズミの駆除に相当役立っているように見えるが、本当に害のほうが多いのかちゃんと調べてから駆除するとか言ってんだろうな? という疑問とか)、エコロジカルな話にも進んだり。さらには、モアの化石から遺伝子を抽出するという本来の研究のほうに進んだり、かかしを作りながらかいこの目玉つくりも実はやってました、と山ほど目玉模様がついたかいこの写真が最後に出てくるわ(ちょっと感動した)で、興味が途切れることなくあっというまに読み終わった。
とにかく仮説をたてては実際にモデルを作ってとっかえひっかえ実験しては効果があれば実用化するの繰り返しだが、それが実に楽しそうだし(想像するだけで根気が必要そうなんで、そんな単純なわけないだろうが)それこそが重要なわけだし、しかも内容も興味深いので、これは小学校高学年から中学くらいにかけての子供にお勧めできる良書だな。
#追記:今、何してんだろうと思って調べたら、本書の終わりのほうで、冬虫夏草の抗癌性について調べる予定とか書いてあったが、結局、リンゴにたどりついたようだ。で、リンゴジュースを売っていたり。
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