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日々の破片

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2008-01-02

_ 読み返せるものと流れすぎるもの

以前、大島さんのところで紹介されていて、おもしろそうなんで読むことにしたPostmanのAmusing Ourselves to Deathだが、通勤の時間+αで、やっと第1部を読み終わったのでとりあえずメモ。

Amusing Ourselves to Death: Public Discourse in the Age of Show Business(Postman, Neil)

いや、やっぱりおれは英語力ないわ。とりあえず半分は読んだが、読めたといっていいのやらどうやら。っていうか、そもそも題がわからないし。死ぬまでおもしろがっていろよ、というような意味なのかなぁ?

第1部は、アメリカ合衆国が成立してから無線によってラジオ網ができあがるまでを書いていて、そもそもアメリカという国は奇妙だから興味深く読めた。何が奇妙かというと、現在のアメリカという国(とその代表としての大統領)と、歴史に出てくるアメリカという国(とその代表としての大統領、たとえばフランクリンとかジェファーソンとか)の落差だ。あるいはボストン茶会事件とか。

で、まさにそんな話から説き起こされる。

移民といっても、プロテスタントとかイギリス国教会からの弾圧を避けて来た連中が多いから、かれらは聖書を読むし、極めて識字率が高くて、90%を超えていたし、婦人でさえ60%を超えていて、これは当時のイギリスの平均より高い、というところからはじまる。

したがって、彼らの娯楽は読書であった。最初のころから本屋が商売していて、場合によっては海賊版をすりまくったり。かくして、作家は英雄として扱われて、そのあたりの様子はディケンズが、アメリカで信じられないほどの熱狂的な歓迎を受けたことをレポートしてるとか。

と同時に、宗教というものが伝統として根付いていないため、理神論が支配的になったとか。ある宗教は、弁論(というか、教理の印刷物)が欠けているために避批難されるとか、つまり、まず文字ありきの文化としてアメリカの歴史は始まったといような調子。

ちょっと正しく読めているか自信がないのが、リンカーンとダグラスの論争のところで、リンカーンが勝ったのが歴史だが、ダグラスの弁論はそのまま文章としても読むに堪える質を維持しているというようなことを書いているから、オーラルを意識した弁論というのに危うさを感じているのかな?

で、そこに無線が出てくることで、素早く、しかし短い、情報が飛び交うことになり、それがつまりニュースで、しかしそれは、だからどうした、というような内容でしかない。つまり、行動を変えたりするような影響力を持たないゴミのような情報にすぎないと続く。

つまるところ、コンテキストの欠如ということで、このあたり読んでいて、もやしもんを思い出した。

もやしもん6巻限定版 ぬいぐるみ付き(石川 雅之)

まんがというのは、メディアとしては絵に比重が置かれるから、雰囲気とか情動を描くのは(すぐれた作家の手にかかれば)文章より的確に伝えられると思う。が、コンテキストが必要な、知識に関するものは別の話だ。

つまり、樹先生の講義を利用したギャグ(結構、頻出する)。延々と文字が続くので途中で主人公たちがさえぎって別の話をし出すというやつ。

つまりは、そういうことだ。学術的な話は文字の羅列にならざるを得ないし、そうなると、それは漫画の文脈を破壊するし(というか、学問マンガではないわけだし)、したがってそれは途中で無視して話は進む。

アメリカと、コンテキストということで、別のエピソードを思い出す。

映画におけるクローズアップだ。

散り行く花 (トールケース) [DVD](リリアン・ギッシュ)

映画にクローズアップが登場したのは、グリフィスの散りゆく花が最初だとされている。あまりにリリアンギッシュが美しいので、われを忘れてグリフィスがアップしてしまったのだそうだ。

この映画は、徹底的にたたかれた。

それまで、映画というものは、フィルムの中に世界を映すものであった。人物が3人いれば、つま先から頭までフレームにおさまった3人が映り、会話する。(確かに、グリフィスが撮ったアンチコカコーラの宣伝フィルムにしろ、国民の創生にしろ、クローズアップはなく、枠組みの中で芝居が行われる)

それが、まったく意味を持たない(物語的なコンテキストが得られない)女優の顔だけがスクリーンを占有するとは何事か、ということだ。

今は逆だ。ハリウッドの最悪の映画では、基本がバストショットだったりするくらいだ。

グリフィスがクローズアップを発見したころは、ポストマンによれば、活字の断末魔に相当する。フィッツジェラルドやヘミングウェイがすぐれた作品を生み出し、各紙がすぐれた論説を生み出す。しかし、それは失われてしまう、というところで、第1部は終わり。

さて、ひるがえって我が国について考えてみたい。

戦国時代末期あたりは、非常に高い識字率を誇っていた、と網野本とかでは書いてある。方言がすごいので、字を使わないとおふれも出せないとか。確かに楽市楽座で流通しまくっていて、鶴の恩返しのように若い女性が自分の家を飛び出て適当なところで奥さんになってしまう世界なのだから、きっとそうだったのだろう。それは江戸時代に人別管理が行われて姿を消すことになるし、少なくても農民に対しては積極的な文盲政策をとったらしいことは知られている(一方、都市ではそんなこたないのが、絵草子だの瓦版だのは、町人の娯楽だったからだが)。

では、そのころにどんな論壇があったのだろうか?

現在でも残っている、論説というか、説明書というか、自説開陳の書というか、実用書というか、……は、風姿花伝だ。

風姿花伝 (岩波文庫)(世阿弥)

確かに、これは自説を主張し、考えを明らかにし、それを伝えるために書いた本だ。

これしかないのだろうか?

おれは、たぶん、違って、たくさんの世阿弥がいていろいろ書物を作っていたのではないかと思う。

ちなみに、宣教師とともに印刷技術も渡来したので、イソップ物語を翻案した伊曾保物語が刷られたのがこのころ。御伽草子もそうだが、こういった子供用の本を刷ってたという事実が、いかに当時の日本人が本を読んでいたかの証左のように思う。

万治絵入本 伊曾保物語 (岩波文庫)(武藤 禎夫)

が、民主主義ではなく、特に徳川政権の職業固定政策では、公的かつ大衆的な論説は不要だ。したがって、そういう方向に出版は進まなかったということだろう(が、その一方で文明開化と同時に、自由民権運動のビラだのブレチンだのがどばーと出てきたことを考えると、実際には、公衆弁論の歴史は日本でも脈々と続いていたのかも知れないなぁ)。

かといって、論説がなかったわけではなくて、幕府内では建白書だのは当然出てたわけだし、改革を行うにあたっては、それなりの文書を作っていたわけだが(と思うのだが)、それは広く出版されるわけではないので、単なる古文書となってしまったのであった。

(なんとなく、古文というのが、古い人の文学の時間でしかないのは、このあたりの問題だろうな)

とか、いろいろ考える点が多いおもしろい本だが、確かにテレビのクイズ番組がつまらないのは、まさにコンテキスト(とカタカナを使わなくても背景情報とか、関連情報とか、そこに至る経緯とか、反論とか)がないからなわけで、しかもコンテキストの不在を、間違えた人を間抜け扱いにするというお笑いで埋めるところだな、とか妙に納得したり。

しかし、メディアか。

本日のツッコミ(全2件) [ツッコミを入れる]
_ よしき (2008-01-02 09:16)

第二部のほうが読みやすいし具体例が多くてより面白いですよ、と書いてみるテスト。<br><br>題は意訳すると「とことん面白がってるだけの人々」というような感じでしょうか。

_ arton (2008-01-02 12:06)

確かに読む価値ありました。どうもありがとうございます。テストしなくても、最後まで読むつもりですので大丈夫です(来週あたりから)。<br>なるほど、to deathで「とことん」と訳せば良いのですね。


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