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新国立劇場でロッシーニのチェネレントラ。
実に楽しく、なるほどロッシーニが大成功を収めてさっさと引退できたというのもわかる。というか、ドイツとイタリア、30年の時間差というもので(贅沢な暮しがたたったというのはあるにしろ)モーツァルトの貧乏生活との落差に感慨がわく。というくらいに、モーツァルトみたいだというか、モーツァルトのオペラがイタリア音楽に影響されていたか、というか。とにかく弦の早いパッサージュや、チャーラチャンタッタみたいな終止形とか。ただ序曲とか楽器が目立つところでは木管がもごもごもっさりするような気がして、管ってのは確かにそういうものだが、ちょっと気になった。
王子役のアントニーノ・シラグーザが大好きなタイプの声で、こいつが歌って演技しているだけで楽しい。
物語は、ペローのものとはまったく異なる。ガラスの靴が腕輪に変わるといたささいな問題ではない。継母ではなく継父、かつその継父が落ちぶれ男爵で後妻(すでに死亡。チェンレントラの実母)の遺産を使いこんでいて、しかも権力への妄執につかまれている滑稽な人物とされている点が物語に軽妙さを与えて見事な喜劇になっている。
しかも、ツェネレントラが実に厭味で、姉二人が明るく楽しい男たらしの歌を歌っていると、陰鬱な声で「王様が選ぶのは誠実な娘」とか歌って邪魔をしたりする、そういえばディズニーのシンデレラも「シンデレラ、掃除しなさい」「はいはい、いやーんなっちゃう」のような反抗的な態度だったが、もしかすると粛々と言うことをきくシンデレラというのは日本的な幻想なのかな(日本の民話だと細部が描かれないからそんな感じだ)。
日本語に劇をアレンジしている個所がいくつかあって、オペラブッファというのはこういうものなのかな、というなんか納得感もあった。
で、とにかくテノールが2幕の途中でいよいよツェネレントラを探すために仮面を脱ぎ棄て(仮面はつけていないけど、召使いのダンディーニの科白を引用)て高らかに歌うところ(あぁ,誓ってまたみつけよう)が、やー、これは感激だった。オペラってのはこうで、なくては、という楽しさ。
みんな、そう感じたのだろう、すさまじい拍手で、アンコールまでしてくれて、へーと驚いた(というか、いきなり歌の途中から始まるので、何か切れ目ではないところに拍手が入ったのかと最初、とまどった。何しろ、初めて聴く曲だったし)。こういうことやられるとドラマツルギーぶち壊しとヴァグナーがぶっきれて無限旋律を導入したのも理解できるが、それにしても、えらく楽しい。こういうオペラも実にいいものだ。
というわけで、初めてフルで聴くロッシーニを満喫しまくった。
人知れぬ涙 アントニーノ・シラグーザ オペラ・アリア集(ジョアキーノ・ロッシーニ)
こんなCDを出しているようだ。『あぁ,誓ってまたみつけよう』も入っているし買おうかな。
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