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新国立劇場で神々の黄昏。オーケストラピットからハープが4本突き出しているのでヴァーグナーと知り。
ジークフリートのときは、ずいぶん声を震わせて歌うなぁ=好きじゃないなと思っていた、ブリュンヒルデの人が素晴らしい好演。
まるまるとしたジークフリートとブリュンヒルデがトレーナー&トレパン姿で「そなたの愛を忘れぬことこそ、それがしがしかと学びしこと」とか対訳付きで歌うのはやはりおもしろい。おれは好きだな。
それはそれとして、今日観ていて、つくづくバランスが悪い劇だと1幕目のヴァルトラウテがブリュンヒルデに面会に来るところで思った。2時間越えるといくら新国立劇場の椅子が他よりもよくても、前の席との空間が取られていても、やはり尻が痛くなってくる。ノルン、岩山の洞窟、ライン下り、ギビッヒの陰謀までは良いのだが、その後も延々と続く(ジークフリートだけは軽いノリで「ではそれがしが、ひとっぱしりかっさらってくるでござる」とか歌うのが表面的にはバカ丸出しでおもしろいのだが)ので1幕目は長すぎる。
それに比べて第3幕は本当に見事で、1時間30分という現在の映画とかでも利用されているきりの良い時間の中に、ライン乙女とジークフリートのかけあい漫才、ギビッヒ族との酒場放談+唄語り、殺人、感動的な死(ここでのジークフリートの世界挨拶の再現というのは思わず涙が出そうなくらい感動的だ)と葬送行進曲(メルクルNHKもえらく良かったけど、今度のオーケストラも実に良かった。見直した)、専業主婦の一人家庭を守る恐怖感と、遺産相続を巡る家族不和、突然悟って歌いまくるブリュンヒルデの自己犠牲、自然に返って良かったねと、実にいろいろな要素を散りばめているし、オーケストレーションは手練の技だし、確かに「もう書くこたないよ」と最後にわざわざメモを残したというだけのことはある。で、これが実に良い演奏。オペラハウスがある国の国民でよかったと感じるわけである。
しかし、結局のところヴォータンの目は、フリッカのために捨てたのか(ラインの黄金ではそんなことを言っていたような記憶がある)、それとも知恵を得るためなのか(ノルンはそう断言しているし)、どうしてハーゲンはジークフリートがラインを下ってくると知っていたのか(この演出では、月間ドイツの英雄という雑誌(だと思う)を読んでいるから、おそらくそれのゴシップ欄にでも出ているのだろうが(ジークフリートもさすがに気づいてハーゲンに「なんでおいらの名前を知ってんだ?」と訊くセリフをワーグナー自身が思わず自己ツッコミ的に入れているわけだし)、雑誌は病院の待合室に置いてあるってことは、グートルーネは少なくとも読んでいそうだし、もしそうなら、ジークフリートが既婚者だということも知っているんじゃなかろうか)とか、ジークフリートと鳥はどういう関係なのかとか(船の中で抱き合っているわけだし)、女と喋るようになったら鳥の声は聞かなくなったとかいろいろ意味深だったり、使い方は知らないうえに指にもはめていなかったのに、なぜジークフリートはニーベルンゲンを支配できているのか(おそらくそのために月間ドイツの英雄に記事が出ている(ニーベルンゲンの取材者がいるのだと推測できる)のだろう)とか、実にいい加減な台本でおもしろい。
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