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クリント・イーストウッドの映画は友人がすごいファンなのでつられて結構観た。観てないのも多いけど。
で、わりと封切りで観ることが多かったので、時代ごとに少しずつテーマが変質しているのだな、と気付く。観ているときは意識していなかったのだが、児玉さんが許されざる者のことを書いているのにつられて長文を書き込んでいるうちに明確化されたように思う。
最初に観たのは中学のときで、ドンシーゲルと組んでいたころだ。つまりはダーティーハリーだ。
(いや、マカロニウェスタンはテレビで観ていたから本当はそっちが先だ)
続 夕陽のガンマン [Blu-ray](クリント・イーストウッド)
ガンマンではなく、映画作家として意識的に観たのは、おそらくペイルライダーのころだと思う(荒野のストレンジャーはそれより前にテレビで観た記憶がある)。
これは最初良くわからなかった。敵は文句なく悪党で、主人公はおそらく悪党に殺された亡霊なのだが、最後の戦いに至るまでがやたらとのんびりと西部の日常が描かれているからだ。山の上のほうから白灰まだらの馬に乗っているシーンや敵の親玉の黒くて威風堂々たる姿とかは鮮明だが、どうにもしまらないというか間延びしているように感じたからだ。
その後、ハワードホークス(リオブラボーとか)とかヘンリーフォード(捜索者とか)とかの西部劇を観て、ああ、そういうテンポが西部劇なのか、と納得した記憶がある。
で、ハートブレークリッジ。
ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場 [DVD](クリント・イーストウッド)
これも、後から栄光何するものぞのような代表的な戦争映画を観てえらく納得するのだが、そうでなくても単純におもしろい映画だ。が、この主人公はやはり過去をひきずっていて(離婚しているだか、何か、家庭に問題を抱えているような覚えがある)、それはそれとして新兵を鍛えて、グレナダで勝利する(朝鮮で引き分け、ベトナムで負けて、やっと勝った、と語られる)。電話をかけるところのギャグとか結構笑ったような記憶があるし、これはおもしろかったな。
それからバードだと思う。
チャーリーパーカーが若いころに食らったパーカッショニストからのブーイングがフラッシュバックで入り、(ペイルライダーや荒野のストレンジャーの鞭打ちのシーンとかを観ていたから)、ああ、こうやって過去の忌まわしい記憶に苦しみながら人生と戦う男というのを、この作家は書きたいんだなと納得したのだった。
というわけで、クリント・イーストウッドというのは、そういう過去と戦う人生を描く作家と位置付けることにしたのだった。
が、そこでホワイトハンターブラックハートを観て、はてなんだこりゃ? と疑問に感じてくる。
ホワイトハンター ブラックハート [DVD](クリント・イーストウッド)
映像はばっちり、ドラマは緊張していて弛緩なく、しかし内容はどう考えても空っぽ、単にアメリカ人がアフリカに来て、わがままし放題で、最後は象を撃ち殺すというだけの映画だ。(いや、何かとは戦っているんだけど、それにしてもなんじゃこりゃ)
が、映画としてのおもしろさが、退屈することの無さだとすれば、これはそれまで観た中で最もおもしろいクリント・イーストウッドだった。
一体、このおっさんはどういう映画作家なんだ? と当然疑問を持つ。
で、ルーキーだ。
チャーリーシーンがルーキーで、イーストウッドがベテランという刑事コンビの多少のお笑いありのアクション映画で、普通におもしろい。
はて、おもしろい映画作家だったのだろうか? と、ここまででまったく脈絡がない(西部劇、戦争映画、ジャズミュージシャンの伝記、わけのわからない文芸作品?、刑事アクション)。ようするに、(とこの時点で結論する)、このおっさんはプロフェッショナルの映画監督&俳優なのだな。
ところが、そこに許されざる者が来る。
えーと、ペイルライダーとは違って、過去の復讐でもないし(友達の賭博師の復讐のような、女たちからの金目当てのような)、敵も悪党じゃないし、伝統的な西部劇っぽいのんびりムードのかけらもない(ルーキーでそういう練習をしたのかも)。しかも、謎めき系だが過去は語られているし(ペイルライダーや荒野のストレンジャーでは謎めき系のフラッシュバックがあるだけだ)、実にストレートにわかりやすい。だが本人が元々悪党だとか、いろいろ陰がある。
結局内容的にはルーキーのような単純な善対悪のような話ではない(ホワイトハンターの文芸路線に近いか)が、映画としてはルーキーのようなストレートな物語で、最初の「過去と戦う男」の物語が明快さを伴って復活したかのようだ。
かくして、おそらくこの作品はここまでの総決算的な意味合いを持ち、事実傑作だと思う。
ここからは素晴らしかった。
おれの大好きなパーフェクトワールドが次に来る。
パーフェクト ワールド [DVD](クリント・イーストウッド)
こんなに印象的な作品はない。1940~1950年代のギャング映画のように、過去の罪業を背負う男が最後に世間的には破滅、自分的には救済される物語だ。
それから、ここで初めて本格的に子供が出てくる。あまり良い生活をしていない子供を、過去に呪われている男が、行きがかり上、助けてしまうという物語とも言える。俳優イーストウッドはここでは間抜けな敵役(でも極悪な正義ではない)としてドタバタ役を引き受ける。作家イーストウッドはささやかな幸せな光景や姿の見えない恐怖や、開放的な風景を自由に組み合わせてパーフェクトワールドを形作る。草原に肘枕
この後、爆発的にヒットしたマディソン郡の橋が来るが未見。しばらく観なくて、久々に観たのがスペースカウボーイ。
スペース カウボーイ 特別版 [DVD](クリント・イーストウッド)
おれは好きだが、これも、過去に因縁を持って(つまり宇宙飛行ができなかった)男たちが(ある意味)戦う物語だ。おれは、これも好きだな。一見するとのんきな話だが、実は3種類の死神がうろうろしている物語でもあった。加齢と、事故と、宇宙空間だ。が、それを感じさせないのは、なんか一皮さらに剥けましたな、という感じでペイルライダーからは15年もたっているのだから、それはそうだろう。つまり、このじいさん(この時点で70歳だからすでにおっさんとは言えない)は、まだ作家として変化し続けているのだ。
で、ミスティックリバーもミリオンダラーベイビーも見逃してしまったが、途中、ブラッドワークは観た。
なんだこれ? うまい映画作家がちょっとおっかない犯罪スリラーを作りましたよ、という感じかな。おもしろかったが、あまり印象がないなぁ(グラントリノのラストのドライブの光景で水が映るが、同じようにヨットハーバーで海が映っていてそれがきれいだったという印象はあるけど)
で、チェンジリングとグラントリノには間に合った。
チェンジリングは映画作家としてはもうこれ以上はないほどの腕前となっていて(農場でのホラー映画のパロディのうまさ、子役のキャスティングの妙味(実際の世界ではもっと本当に似ている子供が連れてこられたのだと思う))まあ、どう観てもおもしろいのだが、それよりもグラントリノだ。
というのは、この作品のテーマは、ペールライダー、許されざる者の系譜だからだ。流れ者ではなくその町の住民だというのはあるが、床屋でのまったり会話とかの日常の描かれ方、どうもあまりよろしくない過去(朝鮮戦争という公の過去と、嫌な夫&父親という私の過去のダブルパンチ)とそれと明らかに示されない後悔(あるいはグラントリノに対する愛着のような過去に対するこだわり)を持つ男がたった一人で敵と戦う(許されざる者のようにひねった敵ではなく、ふつうに悪党だ)。
あと一点重要な違いがある。ラストに世代交代が(ルーキーってのはあったけど)描かれている点だ。
というわけで、なんでも器用に撮れるが、基本的には過去と戦いながら目前の敵と戦うことでその過去に対する落とし前をつける男の物語を撮り続け、テーマは変わらないが、人生観という結論は変わり続ける映画作家、それがクリント・イーストウッド。
おれは思うのだが、誰でも後悔していることの1つは2つはあるのだから、イーストウッドのテーマの「過去に対する落とし前を目の前の敵を叩きのめすことでつける」というのは、本来、すごくカタルシスをもたらすもののはずだ。ところがペイルライダーではその過去をほとんど語らない、許されざる者では叩きのめす対象が微妙な存在、パーフェクトワールドではああやはりそうなっちゃうのかという無力感とか、観ている側の心理的な葛藤を解放させないことで印象付けるような作り方をしていることが特徴だと思う。おそらくめでたしめでたしな作り方をしても、ワイルドバンチみたいなど派手な玉砕をしても、いずれも専業作家の巨匠たちが作った作品の中途半端な模倣と受け取られるだろう(何しろ出身がウェスタンの俳優というのは経歴について回るのだから観る側の色眼鏡がある以上しょうがない)から、そういうストレートな作品を作るのを避けてきたのだと思う。
グラントリノが見事なのは、舞台を現代に持ってくることで(そして本人がじいさんになってしまったことで)、西部劇風な落とし前のつけかたを自然に封じ込んで、きれいに片を付けたことだ。
という思い入れを持って眺めると、それぞれの作品がそれぞれに素晴らしいが、特にグラントリノは素晴らしい。
というわけで、ミスティックリバーやミリオンダラーベイビーを観ることは楽しみに取っておく。
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