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新国立でインルトロヴァトーレ。レオノーラはオテロでデズデモーナを演じた人。あのときは、きれいだが声量が弱いと思ったが、今回はそんなことなく、特に休憩はさんだ3幕目以降は全開という感じ。延び延びとした感じで僕は好きだ。マンリーコはトゥランドットでカラフを演じてた人らしいが、あまり印象がない。英雄的な歌声っぽいのだが、言葉が悪いが2流のデルモナコという感じ。ルーナ伯爵(ときどき、妙な溜めが入るのだが、それはそういう歌だからかな)と母親も良かった。特に母親の歌手はやたらと説得力がある歌という印象。なぜかはわからないが。で、オーケストラも良いものだった。
で、音楽は良いのだが、やはり話の無茶振りと音楽のとってつけた感がどうにもたまらない。
演出ノートを読むと、この演出家は激情の噴出みたいな言い方をしているが、確かにそんな印象を受ける。
とにかく、突然、強烈なメロディーが脈絡なく流れ出して滔々と歌になる。
それは序曲からそうで、ティンパニだと思うけど、不気味に鳴り続けていると思うと唐突に朗々と金管が明るく鳴り響く。チャンバラしながら歌いまくる、お母さんを助けなきゃとそれまでのことは忘れたかのうように唄いまくる、ジプシーが大合唱をする。なんだこれ。
お話のでたらめっぷりと、それがでたらめだとわかって書いている脚本の無法っぷりもすさまじい。最後の「この裏切者め」「頭に血がのぼっているから何を言っても無駄だわ」の繰り返しによる二重唱とか勘弁してくれという感じだ(結局、ここで頭に血がのぼって同じことを繰り返しているもので逃げそびれて首を落とす羽目になるわけだし、首が落ちたら落ちたで、それまでの愛情をころりと忘れたかのように復讐は成し遂げられたと冷静に叫ぶ母親とか)。考えてみると1幕でもマンリーコは間違えてルーナ伯爵に抱きついたところで裏切者めと歌いまくるわけだが、(むしろ密やかに嫉妬するルーナ伯爵の落ち着きっぷりと好対照)、しかも団体戦では常に負け続けで良いとこ一つもないし。
にも関わらず、これぞオペラっぽい楽しさに溢れているので好きなわけだが。
いきなり冒頭、兵士が集まっているところで隊長が昔話を始める。ジプシーの老婆が状況証拠から先代ルーナ伯爵の息子に呪いをかけたので火あぶりにしたら、その娘が子供を連れ去り焼き殺した。おっかねぇな。で真夜中の鐘が鳴りどきっとさせて次の場へ転換(この演出だと、ここで死神が高笑いするのだが、僕は死神ではなくて、老婆と焼き殺された子供の亡霊が常に復讐がなされるかを見張っているのかと思った)。
すると薄物で作った部屋の中でレオノーラが吟遊詩人に恋をしたと歌う。これは良い歌。窓の下では吟遊詩人を捕まえようと(この時点では単に恋敵だからだが)見張るルーナ伯爵。そこへ朗々と歌いながらマンリーコ登場。薄物のカーテンがばさっと落ちてレオノーラが外へ出て、ルーナ伯爵を間違えて(真っ暗だからで、そりゃ13世紀だか14世紀だかだから、夜は暗いだろう)抱きつく。と、マンリーコ登場。裏切者め、単なる人間違いよ、なんて失礼な暴言だ、というわけで、チャンバラが始まる。ルーナ伯爵はチャーンチャチャーチャチャーチャチャララ、チャラン、チャラン、というやたらとかっこいい歌いながらだからつい剣がすっぽ抜ける、とどめをさせないマンリーコ(この演出では死神が止めるわけだが)。幕が落ちる。
マンリーコは戦いに敗れて瀕死の重傷を負うが母親の必死の看病で一命を取り留めると字幕。
ジプシーの大合唱。金床ととんかちを使うわけではなく単にオーケストラがキンコンカンコンやっているだけなので違和感があるが、かがり火はきれいな舞台だ。母親が陰気な歌を歌う。母さん一体どういうことなんだろう? それはね、私の母親が先代のルーナ伯爵に火あぶりにされたのよ。復讐せよ、と私に叫んだのさ。それで子供を誘拐して殺そうとしたのさ。でも目を見るとかわいくてね、でも母親の声が復讐せよと言うから、頭がくらくらしてきたのさ。気付くと子供が炎の中で燃えている。でも、伯爵の息子はここにいるということは、なんと自分の子供を燃やしてしまったのさ。それで伯爵の息子を育てることにしたわけさね。母さんすると僕は母さんの子供じゃない? おやおや何を言うのかい、私はあのときのことを思い出すと妙なことを口走ってしまうのさ。そうなのか。(納得するなよ)
一方、レオノーラは修道女になろうとしているのであった。それを阻止するために誘拐しようと兵士たちと修道院に忍び込みぎらぎらしているルーナ伯爵。
というような調子で物語は進む。それは無理があり過ぎる、と観客が感づくと途端に舞台の人物は感情が爆発して素晴らしい歌を歌いだす。この演出だとルーナ伯爵は邪魔した尼僧を刺殺していたような。
でも、物語的にはマンリーコは明らかにシスで、ルーナ伯爵がジェダイなのだ。強さもそうだし。
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これを良く聴く/観ているわけだが、格はちょっと落ちても生の舞台で観られるというのはやはり良いことだなぁとつくづくと思う。
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