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日々の破片

著作一覧

2012-01-27

_ 今日の読了

本屋で平積みになっていたのでなんとなく買って、1週間くらい通勤中にちびちび読んで、読了した。

鉄道地図 残念な歴史 (ちくま文庫)(所澤 秀樹)

なかなかのおもしろさだった。

題名は、ある路線がABCDEと駅をつないでいる1本の線路なのにABとDEはJR、BCとCDが異なる私鉄あるいは第3セクター、あるいはCD間は何もないというような、妙な路線がそこかしこにあって不思議だから、なぜそういう虫食いのような路線ができたのか、実例をあげて調べましたというような意味。政治問題、経済問題、そりゃしょうがない、そんな無茶な、と、いろいろあるが、結局は日本の近代史の縮図がそこにある、という興味深い話がたくさん。

最初は国鉄民営化によって、日本の鉄道網がずいぶんと減ったというところから始まる。どうも文体が夕刊紙みたいな妙なレトリックがあってはなにつくのだが、出てくる数字がおもしろいので読み進むうちに歴史の話となった。

なぜ国鉄がばかみたいな赤字の塊になったのかが語られるのであった。

根本問題としてあげられているのは原敬内閣のときの法律で、地方ばらまき政治大正版として地方に鉄道を作りまくることが決められた。で、ごていねいに付表として何を作るのかが規定されていたからさあ大変。一度決まった法律を変えるよりは、予算を使って消化するほうが楽だという不思議な国家運営があるので、戦争をやろうが負けようが、炭鉱が閉鎖されようがオイルショックがあろうが、とにかく鉄道を作りまくる。大正時代には欲しくてたまらなかった鉄道だけど、高速道路が通ったからみんな車に乗っていても法律で決まっているから鉄道を相変わらず作る。

というのが中心に一本びしっと通った見事な法治国家ではあるけれど、そこに鉄道王を目指す男たちの野望あり(東武、東急、阪急だけど、その中で西武のエピソードはなかなか浪花節で良い感じ)、明治にさかのぼれば富国強兵の最大の切り札として輸送力に目をつける連中もいるし、なるほど、鉄道の100年間ととらえれば、これもどえらくおもしろい。

で、とても不思議な民営化のエピソードで、整備新幹線のところはさすがにひどいと思わされる。

整備新幹線を作れば在来線は旅客数が減る一方で、メンテナンスコストは鉄道2本分だからとてつもないことになる。

そこで法律で、整備新幹線ができたら、在来線は捨てても良し(地方自治体などが拾いたければ拾うも良し)と決めた。

あれ? と不思議に思ったのは、民営化するときに、JR貨物は在来線の路線に利用料を払って運用すると決めたんじゃなかったっけなぁ、と思わず読み返すと、確かにそう書いてある。在来線を捨てたら(何しろ新幹線を通すような主要幹線なわけだから)JR貨物はどうするんだ? と当然の疑問に思う。

で読み進むと、案の定、東北で大騒ぎになったということが書いてあるし、そんなことはJR貨物を作った時点でわかっているはずだと指摘している。そりゃわかるよなぁというわけで、一体、運輸省や(当時の政権与党の)自民党はそういうことはすべて織り込み済みで先送りしたのだな、と良くわかる昭和の歴史。

その他、バス会社になってしまった地方鉄道とか、どんどん不要化していく(その一方でバスのせいで大渋滞になってまったく通勤通学がとんでもない事態になった地方もあったり、でも鉄道を健全に経営できるほどの旅客数はないとか)。

そこで本を置いてちょっと考えてみると、鉄道がピーク1時間に500人しか運ばなければ、列車2台で回すとしても赤い色が見える。運賃300円としても150000円しか売上が無い。往復で1日30万円。それにちょこちょこ昼間に乗る人がいてもせいぜい40万円いかない。1か月で1200万円。職員が10人いたら、人件費で残りがほとんどなくなってしまうが、当然電気代もかかれば電車の修理も必要、鉄橋があったりトンネルがあればその分金がかかるし、燃料費もかかる。ディーゼル単線化が切り札らしいがそれでもただのわけはない。そこで運行をやめるとピーク1時間500人が車を使うことになるとして、100人はバスに乗るとバスが3台。400人は通勤に車を使うと車が400台。そんな過疎っぽいところだから国道は片側1車線。すでに鉄道が使命を果たしたということはすでにトラックも走っていれば車も走っている。そこに同刻に数100台の車が入ってくればそりゃ渋滞になりそうだ。

と、基本的に電車は3分程度駅で待てば乗れる世界で暮らしているおれには興味深いことばかりで、おもしろかった。


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