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これはすばらしかった。
新国立劇場は、すごい歌手による歌の競演というのではなく、演出の工夫と平均以上の質で手ごろにオペラを見せる劇場という印象を持っていたし、おそらくそういう線を実際に狙っていると思うのだが、今日観たオテロはとにかく歌手がすばらしかった。
まずイヤーゴを演じたババジャニアンが良かった。大体、これまでバリトンって、銀髪のすごい人を別とすれば、あまり通らない声で渋く作品を支えるという印象だったのだが、良く通る張りのある声で歌いまくるからしびれまくる。しかも(演出上の衣装のせいもあるが)いかした男前っぷりで、まるでベネツィア=キプロスのマトリックスを支配するオテロに一人で挑むネオという格好良さで舞台を回す。この歌手は気に入った。
で、今回代役なのだが、デズデモーナのボルシがすごいのなんのって。コジファントゥッティのときは、まあ新国立劇場に来る歌手だなという印象だったのだが、今回は最初の発声から、なんと美しい声なんだろうとはっとさせられて、魅了されまくる。声の美しさで感動するのは久しぶりだ。このくらい、見事なデズデモーナを観る機会はそうそう無いんじゃなかろうか。というわけで、ボルシという名前はおれのディーバ名簿に刻み込まれた。(本来出演するはずだったポプラフスカヤはメトロポリタン歌劇場のドンカルロのエリザベータで観たことがあるが、(劇場がでか過ぎるというのはあるにしても)、ここまで素晴らしい歌が歌えたかどうかはわからない)
オテロのフリッカーロは、あまり好みの声質ではないので感じるところはそれなり。ということで、2幕の途中だけはちょっと退屈したが、そうは言っても堂々たるオテロだ。
あとエミーリアの清水という人が、あれ、この歌手は日本人なのか? とちょっと驚くほど声量があって(特に4幕)、これまた良かった。
オーケストラは東京フィル。金管がスタッカートしまくるところでもそれほど危なげなく演奏していて良い感じだった。
この演出を観るのは2回目だが、おれはすごく好きだ。実に良い舞台美術だし、衣装も良い(今回は特にイヤーゴが似合い過ぎていて特にそう感じるのだろう)。
今回、気づいた演出。オテロがヴェネツィア特使から受けた総督からの書状を読み「オテロはヴェネツィアへ召還、新司令官はカッシオ」と告げるところは、これまで額面どおりに、そう書いてあるのかと思っていたが、この演出はそうではなく、特使ですら、封印された書状の内容を知っているとは限らないわけなのだから、自分と共にデズデモーナはベネツィアへ去り、司令官としてカッシオがキプロスへ残るという状況を作ることで、2人がどれだけ動揺するかを探ろうした、という解釈をしているように読めた。書状を読み上げたあとのオテロのセリフが、2人の顔色を伺うような内容だったからだ。ところが、期待していた反応が引き出せないため、デズデモーナを地に這わせることになる(が、引き出せたら引き出せたで同じことなんじゃないかなぁと思うが、いずれにしても引き出せるわけがない)。
Maria Luigia Borsi(Numitor, Gerd)
(リリックソプラノ プッチーニ ベルディ という副題が付いているから、ボルシについての何かなんだろうけど、なんなんだろう? アフリカへの寄付ウェアで、Wikipediaの内容をブックレットにしたものということなのかなぁ)
(ボルシがリューを歌ったトゥランドットのCDはあるみたいだ)
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