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牛追いの10女として生まれたウィニフレッドの生涯を聞きとってまとめた作品なのだが、これはものすごくおもしろかった。
20世紀初頭(第1次大戦前)にイギリスの田舎の土豪に牛追いとして雇われている父親のところで生まれたウィニフレッド(母親は女中から専業主婦になっている)の子供時代、少女時代(女中時代でもある)、途中第一次世界大戦をはさんで恋した相手は戦死して(多分、そこから悲しい後日談も後に出てくる)、逆に相手が恋していて無事生還した男と結婚して専業主婦となり、しかし夫はおそらく戦争の後遺症で何度か廃人化したのでまた女中に復帰したりと、波瀾万丈ではないのだけど、現在の生活から見るとまるで冒険のような人生がえらく細部に凝って書かれている。
記憶の断片の再構成だからだろう。妙にリアリティとコンテキストがある細部の積み重ねによってある時代、ある出来事、ある生活習慣、ある人々の態度、ある行事の様子といったものが興味深く、生々しさを伴って描かれているので、これがつまらないわけがない。
とにかく、次々と新しい発見があり、驚きがあり、喜怒哀楽があり、あっという間に読了した。これはすごい本だ。
子供時代、家の残っている(残っていないのは、ほとんどが女中として出ていったからで、一人はレイプされたためにふしだらな娘として救貧院に捨てられて(なんと理不尽な! と怒りに震えてもそこは紳士の国イギリスだから女中の立場というのはそちらが悪いからさんざん鞭で叩かれて救貧院送りになる。ウィニフレッドによれば救貧院が最悪なのは三度の食事が薄いお粥だけだかららしい。というか、現在のアラブの国とそれほど変わらない紳士の国だった)、ジフテリアで3人死んで、1人は兵隊と駆け落ちして(まるで高慢と偏見の時代と変わらないが20世紀のお話である)とかそんな感じ)姉たち(でもすぐに14歳になると女中に行ってしまう)や弟と、食べ物はほとんどないので森でツグミを捕まえて(これは売れるから売る)きたり、スズメを捕まえたり(これは害鳥だしもちろん食べる)、毛糸は羊が柵に体をこすりつけるから、柵に残った毛を集めて縁って作るといった暮らし。
イギリス初の金属製飛行機の飛行を観に弟と出かけていき、帰りが遅くなったため、母親に無茶苦茶自分だけが怒られる(弟は男だから何かがあったら大変だが、彼女は女だから何かがあってもどうでも良い、したがって、彼女がすべて悪いという理屈らしい)。そういう母親に対する怒りもあれば、まあしょうがないというあきらめもあり、それなりに尊敬もあったり、物の見方が一面的でなく、しかも批評眼を常に伴っているので、すべての事物がおもしろいのだ。
つまり、彼女は特別な存在で、たまたま女中(というか牛追いの娘)に生まれたのが運の尽きで、それ以外の環境にあれば全然異なる人生を歩めただろうと思う。
が、最晩年に本書の筆者に対して昔話をすることになったので、この稀有の書が生まれたらしい。仮に全面創作だとしても、説得力(各エピソードの内容と原因や感情が見事に組み合わさっている)の強さは半端ではない。
印象的なエピソード:
・最初に奉公に出た家を出る時の交渉(暇乞いの時点で主客逆転)
・戦勝祭でのドイツ人商人に対するリンチ
・食事はウサギのシチューの中身を主人家族に出した残りの汁
・コックは偉い。家庭教師は偉い。
・ピンハネをする中間管理職。
・やられたほうが悪いという論理の横行。なので身持ちが良いということが重要(主人の息子に手を出された場合、その娘の両親の勤め先にまで波及して一家全員解雇となり露頭に迷う)
・ジプシーへの施し(神様が乞食に姿をやつしてくるかも知れないので親切にしなければならない)
・第2次大戦後、若い女性が戦地から戻ってきて、そしてそのまま別の職業に就いたことから、女中という職業が大きく消失した
・賃金が上がると、貸家代が高くなったり、食費が徴収されるようになったりする
・紹介状なしではまともな職業にはつけない(門限を破った女中、兵隊に行った羊飼い-兵隊に行くと働き手が減るので怒った主人が兵隊の父親を追い出そうとしたところ、兵隊が軍に働きかけて阻止させたのを主人が恨みに思って除隊して戻ってきたらいきなり紹介状なしで馘首にするというエピソードがある)
・着替えの最中、隙あれば女中の脚を蹴って、誰が主人か教え込もうとする子供
・学校のエピソード。数学の時間は質問禁止。特別な生徒は良い席、良い食事、良い授業。
・軍隊の演習が農地や牧場を荒らしても補償は一切ないので、被害にあわないように気を付ける(牛を出さないようにするなど)
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