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トーマス・アデスというカナダの人らしいが、のテンペスト。金管ビョンビョンなので、なるほど第二のブリテンというのはそのあたりかなと思う。
ただ、特に3幕(2幕の前奏部でも感じたような記憶あり)で顕著なのだが、解決を正に和声の解決に重ねるので、中途半端な感じもする。一方、20世紀前半と異なり、何がなんでも無調と肩肘張らずに音を作っていていいなぁとも思う。要するに良かったのだ。
シェークスピアのうち苦手な(なので読んだことない)妖精物語なので筋を見るのは今回が初めてなのだが、そこはシェークスピア(もちろん台本作家もうまいのだろう)えらくおもしろかった。
ミラノ大公だが学者肌、閉じこもって文献あさりに精を出していたために、政務を任せた弟とナポリ大公の陰謀にはまって幼い娘と小舟に乗せられ放逐されたプロスペローは、人情味あるナポリ大公の宰相の計らいで積まれた多少の文献と食糧のおかげで謎の島に上陸、幻術で島を支配する。
大魔術師ということになっているが、物語の中で優れた学者は学問の力を借りて世の人には魔法のような暗示をかけることができるとか説明されている。
しかしどう説明しようと妖精が空を飛び、奇妙な獣が(プロスペロー上陸までは)島を支配している場所なので、魔法は魔法だ。で、身体一面に失われた文献から忘れぬように彫り刻んだ黒いスペルで埋まっているのだが、このスタイル、歌唱、顔つき、身体つき、プロスペロー役のサイモンキーンリーサイドがまず素晴らしい。
魔法の力でテンペストを起こしナポリ大公と現ミラノ大公を乗せた船が島へたどりつく。
さっそく復讐のために、ナポリ大公が愛する王子、フェルナンドを誘拐して連れてくると、娘(ハイティーンに成長している)のミランダが一目惚れ。ちょっと父娘の諍いがあるが、プロスペローが勝利してフェルナンドは宙に磔となる。
しかし、夜になってミランダがやってきて、魔法を解除し二人は逃げていく。
それを遠くから見ながらプロスペローが、なんと父の魔術を打ち破るほどの強い愛をお前は覚えたのか、さよなら娘よ、成長したなぁと嘆き節。いや、思い切りの良さがかっこいい。
という父と娘の物語と並行して、王子が行方不明になったので今こそナポリ大公を暗殺して自分が王座につこうとたくらむ甥だの、それをそそのかすミラノ大公だの、忠義一筋の(人情味あふれる)宰相の政治ドラマと、かって島の女王によってあまりの悪さゆえに木に閉じ込められていたのをプロスペローに解放された妖精アリエルが、解放条件の12年の奉仕がもうすぐ終わるというので、やたらとさっさと解放しろと歌いながらも空を飛んだり宙に浮いたり、普通のソプラノよりさらに高い音域で歌いまくり、島の本来の持ち主の怪物カリバン(ただ頭が良くないので、ミランダが成長したから当然自分と結婚して島は再び怪物で満ちるだろうと根拠なく思い込んでいる)の島の奪還作戦が繰り広げられる。
音楽的な見せ場はミランダとフェルナンドの二重唱と、アリエルの愚痴なのだろうが、既にして時代は21世紀、オペラは歌がついたドラマとなっているので、特にどうということはなく進む。
島を奪回に来たカリバンにミランダが、なんでお前みたいに醜い獣と結婚するなんて思えるの? 鏡見たことあるの? と身も蓋もない痛烈なことを言うが、元々フェルナンドに一目惚れするところも、あらいい男、というような感じだったので、あまりの薄っぺらさが逆に衝撃的だった。
最後、プロスペローはミランダとフェルナンドの結婚を祝福し、ついでにみんなを許してやる。ナポリ大公は息子の帰還と復活ミラノ大公の娘との婚姻を大いに喜ぶ。しかし現ミラノ大公は自尊心を守るため島の彼方へ一人去る。プロスペローは魔法の杖を叩き折り(その後、なんかおたおたする)、解放されたアリエルは天に昇っていく。
島に残ったカリバンはたった一人で取り残される。
幕間のインタビューで歌手たちは全員、歌が難しいと語る。なぜ? とデボラボイトに訊かれるがそこは答えない(フェルナンドがリズムの複雑さを上げていたかな)。アデスのインタビューでデボラボイドが聞くとやはり答えない。メロディーが無いからだということは口にしないという約束があるらしい。音を変えても良いのか? とデボラが聞くと、許さないとアデスは答え、これだから作曲家ってやつはとデボラが肩をすぼめる。
昨日は中年作家と女子高生の仮想父娘小説を読んで、今日も父娘オペラかと思っていたら、別口で父と息子もののマンガがやってきてなんでだ? と偶然の連続技をおもしろく思う。
演出(ミラノスカラ座を舞台とする)も良かった。特にキーンリーサイドのメークと衣装が良いなぁ。出だしのくるくる回るアリエルのスタントの人と布から半身を出した波に呑まれる人々の描きかたもうまい。
カーテンコールではアリエルのオードリルーナが特に大拍手。キーンリーサイドでスタンディングオベーションが始まりアデス(指揮もやった)が舞台に乗るとほぼ総立ち。確かに舞台として実に見事だった。
読まず嫌いはよろしく無いなぁと、テンペストをKindleストアで探すと無い。小田島訳は白水社だから期待していなかったが、それにしても見事に無い。というか、シェークスピアそのものが坪内訳のロミオとジュリエットしかない。なんだ、この本屋? シェークスピアも置いてないとは話にならないじゃないか。と、あまりの使えなさに逆に仰天した。
テンペスト (白水Uブックス (36))(ウィリアム・シェイクスピア)
(と思ったら、シェイクスピアで検索したら1092タイトルも出て来た。それはそれで使えないような。というか、「なぜ大和を「ヤマト」と読むのか」なんていうどういう脈絡でひっかかったのか謎な本を結果に出すくらいなら、シェークスピアの検索にシェイクスピアを含めろよと思うのだが)
小田島好みだが、未知の訳者のこれでも買うかと、
あらし 研究社シェイクスピア・コレクション(ウィリアム・シェイクスピア)
を購入。
例によって原作を読むと、3歳になる前に追放されて、もうすぐ12年だから、14歳だった。ハイティーンじゃないや。
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