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小学校の国語の教科書に、たしか山本有三だと思うが、文章の書き方を説明しているものがあって、次のことを学んだ。
・生な表現はできるだけ避ける
たとえば、「寂しかった」とか「悲しかった」のような形容詞を直接使うのを避けるということだ。それはここぞというところでバーンと出す。抑制された末に出てくる直截表現は読むものに強い印象を与える。
したがって、形容詞は基本的に情景に語らせる。星ひとつない夜(と書けば「暗い」のは自明なので「暗い夜」と書く必要はない)に一人で豆腐を買いに行かされた。聞こえてくるのは自分の下駄が時々蹴飛ばす石の音だけだ。いつもであれば足元にまとわりついてくるジロのハアハアいう声が聞こえてくるのに、ジロはもういないのだ。とか書いてあれば、飼い犬のジロが死んだので寂しい思いをしているということもわかるから、寂しいとか心細いとか書く必要はない。
具体的な記憶はないのだが、同じ言葉の繰り返しを避けるというのも同じく国語の時間に習ったことだ。
赤い太陽に照らされて赤い頬がますます赤く見えた。と「赤」を3回も使うのはだめで同義語で置き換える。
日本語の場合は、漢字が自由に使えるので、単に爍い太陽に照らされて紅い頬がますます赤く見えたとするだけで随分だ。
で、こういうことは日本語の文章作法だと思っていたのだが、高校あたりの英語の時間に、同語の繰り返しは避けるということを習う。そのためにシソーラスが重要と言われる。
で、ある日、Amiga用のワープロの広告を見ていて(Amiga Worldなので英語の広告だ)、シソーラスがどうこうと出ているので、あー、これのことかと納得する。ワープロが同語を見つけると、同義語の変換候補を出してくれるということだ。
で、日本語はまったく良いのだが、これは英語の一般的な文章を読むときにズシリと利いて来る。
上の説明を読めばわかるように、これらの文章作法は、技術文書には適用してはならないものだ。
技術文書であれば、定義済みの用語だけで完結させるほうが望ましい。したがって、同語だからといって置き換えてはならない(地の語りの部分はともかくとして、そういう部分は少ない)。もしろん、形容が必要であれば、そのものを意味する形容詞を使うべきで、婉曲な情景による表現というのはありえない。たとえば、transactionalを婉曲表現したらそれを書いた人間はばかだとわかるから、読む必要すらない。
というわけで、わりとすらすら英語で書かれた技術文書は読めても、文学チックなものはとっても辛い。語彙が偏っているから、まんべんなく同義語で変えて来られるとさっぱりわからない(というのは言い過ぎで、これはさっきの続きなのだから、意味はさっきの~と同じだなということはわかる)からだ。少なくとも、ニュアンスのようなものはばっさり消えてしまうのだった。
というわけでHatching Twitterを読み始めたのは良いけれど、おれには相当きつい。著者はニューヨークタイムズのジャーナリスト兼コラムニストだそうだけど、実に筆が立つ。問題は英語として筆が立てば立つほど、こちらは読み辛くなる点だ。
というわけで、ようやくTwttrの名づけ親で、前身のオデオの本来の創業者の(しかし諸般の事情からCEOとはならなかった)ノア・グラスがイブ・ウィリアムズ(Bloggerの創業者でその有名なところと金がある点からオデオのCEOになっている)から馘首を宣告されて背後で扉がスラムシャットダウンされるところまで読み終わった。どうも筆者は陽が当たっていなかったTwitter創世記に重要な役回りをしているノア・グラスに陽を当てることも使命の一つだと考えているのか、読んでいるとノア・グラスに対してとても同情的な気分となってくる。とは言え、実際に回りにいたらうざったくて(うざーという言葉がとても当てはまる役回りなのだ)たまらない野郎だなとも読めるけど。
ここまでで全体の27%。しかし、2週間近くかかった(通勤読みだけど)。
でも、27%でも相当おもしろかった(おそらく語彙の理解度も27%のような気がする。0.27の2乗で1/16しか読めていないことになるかも)。とはいえ、ギークタームやテクニカルターム(「let the beige door slam behind him」と書いてあればFIN-ACK-FIN-ACKではなくRSTでドアが閉まったことがわかるわけじゃん)、カルチャー的なところはわかるので、結構楽しめた(という言い方をしているところを見ると、続きを読む気はあまり無いようだなと自問する)。
なんというか、オデオ(PodCastの会社だがローンチ前にAppleの参入が見えてぽしゃってしまう)の様子が相当、オタサークルっぽい。
妙な反政府主義者の夫婦者(ぐだぐだなのは「not the anarchists refusing to follow rules and allow order」とそのRabble自身が星5のレビューで書いていたり)がいたりするのはともかく、サークラ的役回りの女性(クリスタル)がいて、まあ実際サークラなのでジャック・ドーシー(ファッション業界へ転向するという訳のわからないおどしをノアにもイヴにも言い出すところが妙なのだが)とノアグラスの関係ががたがたになってしまって、ノア追放の原因の一つになるところとか、頭を抱えたくなるような感じ。
ただ、このクリスタルがTwitterの誕生に相当大きな役回りを果たしていて、早い話が、ギーク系オタサークルにちょっとキャピった女の子として入ってきたために、ケータイのテキスト文化をジャック・ドーシーに教えることになり(この時点で少なくともドーシーはケータイを即時性を持つ移動式電話としてしか考えていないので、若いいかした女の子のケータイ文化をここで初めて知ることになる)それがTwttrの初期のアイディアにつながったりするのだった。(最初からSMSインターフェイスを重視していて更新がSMSで通知されるように作っていたと読めるのだが、日本のSMS(Cメールとか)と違って、USのSMSはインターネットとの相互運用が自在なのかなぁ)
もう1つおもしろかったのは、オデオは従業員の間でまったく使われなかったのに(社内に試作品が置いてあって誰でも使えるようになっている)、Twttrは従業員や一部のアーリーテスター(というか招待された人)の間ですぐさま広まるくらい人気となるのだが、投資家にはそれがどういうものなのかさっぱり理解されないという箇所。理解されないのはノアの説明が下手だというのもありそうだが、なんとなくわかる。
意外だったのは、ノアグラスについての説明で、最初の登場のシーンからはきっとウォズニャックみたいな人(大男だとかいろいろ書いてあるし)を想像していたのだが、少なくともTwitterのアイコン(本人かどうかはわからない)を見る限り、全然違うタイプだったこと。
というように、少なくとも最初の27%については技術的な話ではなく、人間関係のぐだぐだを描いたおもしろギークの生態観察みたいな本だった。
Hatching Twitter (English Edition)(Bilton, Nick)
つまり、ソーシャルネットワークのTwitter版と考えると外れ無し。
ソーシャル・ネットワーク [Blu-ray](ジェシー・アイゼンバー)
これはこれでおもしろいものだ。
あと、ジャックドーシーが千羽鶴を作って結婚式のお祝いに贈ったというようなことが書いてあるのだけど、アメリカにもそういう文化があるんだろうか? (おそらく無いからクリスタルに毎日鶴を折ってちょっと気持ちの悪いことをするところで、決定的にうざがられてしまうんだろうとは思うけど。というか決定的にうざがられたようなことは書いてあるけど、その後もなんとなく仲良くやっているように読めて、単におれが正しく読めてない感)
(jmukさんの感想がおもしろそうなのでkindle版が安かったし翻訳待たずに読んでみたのだった)
ジェズイットを見習え |
確かにかなり小説っぽい本です。映画化を狙ってたんじゃないかと邪推してます。<br>そうはいっても人間そうそう新しい表現ばかりはかけなくて、書き手の癖みたいなものもあるので、長い本は後半のほうが早く読めたりするのはわりとあります。<br>同じ理由で長編小説より短篇集のほうがしんどいという読み手も多いみたいです
どうもありがとうございます。とりあえずは読めてますし、面白いです。<br>慣れについては、言われてみるとそういう傾向はありますね。一冊読むたびに、なんとなく英文を読むのに慣れてきているのかと思ってましたが、筆者の文章に慣れただけというのは目鱗です。それで、別の本を読み始めると、意外と読み進まないなと不思議になることがあるのか。
SMS-Gateway というサービスがあって、海外だとよく使われてるようです。最近だと 2 factory auth のトークンやりとり手段としてよく見かけます。+81の番号を指定すると、日本の携帯番号宛にも届きますよ。<br><br>本にもある通り SMS べったりなはずの Twitter が、日本の SMS には未対応です。キャリアドメインのメールアドレスが普及しすぎて SMS があまり使われてないので、コストが見合わないのだろうなぁ、と邪推しています。
おお、なるほど。どうもありがとうございます。<br>ぼくは家族間で結構Cメールを使っているので、便利そうだな、と思ったのでした。