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日々の破片

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2014-05-31

_ アラベッラ

新国立劇場でアラベッラ。

2010年10月に続いて2回目となる。今回は異様に空席が目立った。特に1階の脇のようにS席としては今ひとつな場所が空いていた。さすがに4回目となると、もういいやとばかりに来なくなる人がいる(その一方で追加される観客はいない)ということなのだろうか。

が、客の入りと演奏はまったく関係なく実に良かった。前回のシマーも良かったが、ベルトランビリーの指揮は精緻で、弦がとにかく分厚い編成なのだが、室内楽的な細かな響きで、そこにアラベッラとズデンカの2重唱、アラベッラとマンドリカの2重唱などがからみあって実に美しい。

アラベッラもズデンカもまったく知らない歌手だが(というか新国立劇場は基本的にそういう選択の劇場だ)、アラベッラの伸び上がる歌も美しければ、ズデンカの落ち着いたような浮ついたような不思議な歌も美しい。マンドリカのコッホという歌手も前回のマイヤーに負けず劣らず良い歌と演技。特筆すべきは親父役の妻屋で、どんどん良くなってきているように思う(ナブッコのテロリスト役からこっち次々と異なる性格の役を演じているわけだが、どれも良いのだったが、どんどん痩せてきているようにも感じるけど、衣装とかのせいだろうな)。

ふと気付いたが、19世紀終わりから20世紀頭にかけてのオペラはここぞというところで、セリフを吐かせることで、強烈な異化効果を生み出している。

ラボエーム(1896)でルドルフォがなぜおれを見ている?と叫ぶところ、トスカがマリオーと叫ぶところ、道化師(1892)の最後でトニオ(またはカニオ)がコメディは終わったと叫ぶところ、カヴァレリアルスティカーナ(1890)のトゥリドさんが殺されたという叫び声、これらはいずれもオペラという夢のような(通常の演劇よりはるかに)非現実の世界のできごとを現実にあり得るものとして観客の意識をこちら側へ引っ張り戻すものだが、アラベッラの、マンドリカがいきなりまじになって怒り出すところから現実的な演劇となり、ズデンカの告白で頂点に達する。もっともアラベッラは1930年だから直接の影響うんぬんではなく、そういう手法として確立しているものを利用しただけなのだとは思う。

とにかくとても満足した。

最初士官の名前がマッテオとイタリア風なのが不思議だったが、オーストリーハンガリー帝国にはイストリアやトリエステといった今のイタリアも含んでいるのだからおかしかない。

脚本的には、主人公一家、マッテオ、マンドリカ、3人の御曹司それぞれが名前から民族的なおかしさなり意味付けがあるのかも知れないけど、そういう方向から説明したものは見かけたことはない。

プログラムを読んでいて一点へーと思ったのは、3幕の開始が性交音楽だという指摘。なるほど、確かに2つの主題のからみ方からはそう受け取れる。シュトラウスというのはあまり官能的な音楽というのは得意だとは思わないのだが(サロメのヴェールの踊りなどうまい曲だとは思うが特段官能性は感じない)技巧的に過ぎるからかも知れない。

劇中マンドリカが山ほど持ってこさせるのは、読み間違いでなければモエエシャンドンで、なぜウィーンでしかもハンガリー出身でモエシャンドンなのかとか、これも時代的な意味はあるのかも知れないがわからないなぁ。

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