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10日は新国立劇場で椿姫。
指揮は、以前から気に入っているイブアダムなので、どちらかというとそれほどおもしろいとは思えない椿姫でもまあいいかなぁという程度の気持ちで観に行った。
でも、これは観に行って本当に良かった。素晴らしかった。初日なので歌手は随分セーブしていたのかも知れないが、いやいや実に良いものが聴けた。
最初、舞台の一角がチェロのほうにはみ出しているのがカーテンの下から見えておもしろい。
それよりも、序曲からテンポが素晴らしく良い。やっぱりイブアダム好きだな。2幕のアルフレードの2曲目では、おや、こんなにズンタカッタッタ調だったっけ? とはっとなるほど威勢が良い。まるで闘牛へ行くみたいだな。
で、幕が開くと、中央に置かれたピアノの上にヴィオレッタが寝そべっていて、手前にはシャンパングラスのタワー(危険ではない程度)が積まれている。
ヴィオレッタの声が高音が入った美しい声でまず気に入った。アルフレードは普通にアルフレードで良いも悪いもない。女性に比べて男がみな画一的な衣裳で誰が誰だか良くわからない(これは2幕2場でもそうだった。親父はわかるけど)が、まあそんなものだろう。
センプレリベラが始まる直前(ベルディが例によってチャチャーンと一旦終結させるのが悪いのかも知れないけど)長い拍手が入ってちょっと気がそがれる(歌手もちょっと困っていたみたいにみえた)。が、そこまでもすでに随分良いのだ。で、センプレリベラの部分はちょっと声が小さいような気がするのだが、そのあとでオーケストラを踏み越えて行くので、そういう強弱の付け方の歌い方なのだろう。最後、くるっと回した後は割と早めに切り上げる。意外なほどアルフレードの声が力強く聴こえる。朗々とした良い歌いっぷりかも。
ヴィオレッタの衣裳が2幕1場の紫の衣裳、2幕2場の黒の衣装が美しい。1幕は白だったかな?
親父も悪くないが、何か(元々そういう歌だが)妙に説明的な感じを受けた。が、ここでもヴィオレッタが美しい。ベルナルダボブロという多分東欧の人。
休憩が2幕の1場と2場の間で、妙といえば妙だが、時間的なバランスが劇中的にも(1-(3か月)-2a(同日)2b-(3か月)-3 で対称だ)現実的にも良いので納得感はある。
2幕2場で右側の壁がなくなり、ヴィオレッタのアルフレードを失った虚無が突然広がる。
3幕は、まるで日々の泡の最後のように妙に狭くなった空間にヴィオレッタがいる。ここのベッドもピアノだ。他の登場人物はすべて紗の向うで、どうもこの解釈ではジェロモン父子はヴィオレッタがうなされている末期の夢でしかないようだ。それにしても、ボブロの歌唱は美しい。
演出家(ヴァンサン・ブサール)や衣裳の人とかが舞台に上がると珍しくブーが浴びせられていた。最後をヴィオレッタの夢にしたことが気に食わなかったのか、1幕や2幕2場の合唱の動かし方が何かごちゃごちゃしているのが気に食わなかったのか(子供は2幕1場の親父が突っ立ったままで、ヴィオレッタが手紙を書くところもおざなりでちょっと……と言っていたので、そういう点かも知れないが)、おれは相当好きなすっきりした演出なだけにいろいろな好みがあるのだなとつくづく感じた。
帰り、車の中でクライバーとコトルバスの椿姫をかけてみたら、良く似た声質で、しかもセンプレリベラの最後のところのくるっと回して早めに打ち切るところがそっくりだったので、ちょっと驚いた。
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