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以前蛾の先生から教わって買ったままになっていた自然を名づけるを読んだ。
ここ数年で読んだ中で一番おもしろかった本かも知れない(不満もたくさんある)。あまりにおもしろいので400ページを越えるハードカバーの重くてかさばる本なのに通勤時に持ち歩くことになってしまった。
純粋にすさまじくおもしろい点を挙げる。
・まず、生物分類学という学問そのものと学者たちがおもしろい。
・良く知らない情熱を傾ける人がいるジャンルについて知ることそのものがおもしろい。
・リンネのキャラが立ち過ぎている。傲岸にして不遜、しかし真摯というおれの好みのタイプだ。
・数量分類学(ソーカル、最初ポストモダン叩きの人かと思ったら別の人だった)のキャラも濃い
・ソーカルがすごく好き――思い入れをもって読んでしまうのは、今になって気付いたが、師匠のミチナーとあわせて、まるで「先生、おれは対位法にさかのぼって勉強する必要があるんでしょうか?」「君、数学を知っているじゃん。音楽は構成だ。数学を使ってみればいいじゃん」というクセナキスとメシアンのことを意識せずに重ねて読んでいたからのようだ。
・ウーズのRNA分類が途中で消えてしまうのだがどうなったのだろうか?
・悲劇の半生ヘニックの知性にしびれまくる。またそれを発見した人たちも偉いなぁ。
・分岐学派の描写がヒャッハーのモヒカンそのものでぶっ飛ぶ(訳者のあとがきによれば、別に筆者がもっているわけではなく、十分以上に抑制して書いているというのだから、どれだけ攻撃的な連中なのかと。リナス世代なのだろうなぁ(と、タネンバウムとの論争を想像したり))
分類という行為に関する知見もおもしろい
・脳による生物と無生物の認識の差というのは実におもしろい
・ポケモンやら乗り物やらに対する子供のコレクション欲求
・些細なブランド(カバンでもPCでもOSでもなんでも良いけど)の差異分類/識別能力
・特に筆者による、現代のマーケティング(ブランド戦略)は人類(生物)の本質的能力である固体識別/分類/認識能力の刺激に依存しているのではないかという知見には感心しまくった。説得力があり過ぎておもしろ過ぎる。
特に中半まではページをめくる都度に新たな発見があるくらいに興奮のるつぼ状態で読める。
自然を名づける―なぜ生物分類では直感と科学が衝突するのか(キャロル・キサク・ヨーン)
不満点は、著者の態度だ。
どうにも分母が少ないからだとは思うが(とは言えこれまで著者名を意識して読んだ5人のうち5人全員だ)、女性科学者(科学分野著述者)特有の不快な攻撃的文体(訳者のものとは思えない。おそらく文章の組み立て方法にあるのだと想像する)が多用されているのだ。
特に第1章と後半で鼻につきすぎる。とにかく第1章が香ばしすぎるので危うく読むのをやめるところだった。
ルサンチマンが漂うと、ようするにこいつは全然知らなくて自信もないから虚勢を張って適当を書いているのではないか? と疑念が浮かんでくるからだろう。内容は最高なのだからもっと普通に書けば良いのにもったいない。
なんか最後のほうでは
・読者を子供扱いしてご機嫌を取るというくだらない戦略
・本気でぶっとんでしまった
・もともと頭が悪い
・書くことがなくなったので出版社とのページ数の契約上の帳尻合わせ
のいずれかに見える。
もっとも、本書にも出ているが、アメリカという大半の住民が進化を否定している国の言語で一般教養書を出版するということによる慎重さという可能性もある。その場合は
・読者をばかだと想定……というか、最初の可能性と同じことだった
そこが非常に読んでいて気分が悪いが、内容は本当におもしろかった。
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