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日々の破片

著作一覧

2015-06-28

_ 沈黙

新国立劇場で、松村禎三の沈黙。

原作は読んだことがないので、完全に初見でもある。

松村禎三はえらく前にビクターから出たLPを持っていたことがあるが、響きが美しい曲を作る人という印象がある。

松村禎三の世界(松村禎三)

(多分、これの元になったやつじゃないかなぁ)

場を細かく区切った2幕構成。

舞台には巨大な十字架が斜めに立つ。

最初、十字架にかけられて火あぶりにされる人を背景に置き、家族を密告したとしてキチジローという男が村人から責められているシーンで始まる。ハライソの寺へ行くのだという歌のみ明確な旋律がある。

場が変わるとマカオで、フェレイラから音信がとだえたため現状を知りたいと日本への渡航を地区長へ頼むロドリーゴ神父が出てくる。水先案内人としてキチジローが連れて来られるが、あまりのびびりっぷりに神父が呆れる。

場が変わると切支丹村で歓迎されるロドリーゴになる。名前がロドリーゴなので間違いなくこいつは牢屋へ入れられるのだろうなぁとか考えながら見る。恋人同士を祝福する。

場が変わると踏絵となる(幕を下ろした手前で演じられる)。

ああそうかと最初の場の記憶もあってはじめて、踏絵について納得した。

そんなもの、我が心の神を守れば、いくらでも踏めば良いではないかと不思議だったのだが(実際、江戸時代の中期以降はそうなったらしいが)、

1) 神は外部にあるのだから、その行為をどう取りつくろうが、神に見られているのだ(※)という意識があればなかなか踏むことはできない

2) 踏んで帰れば、村の人間は踏んだということを知ることになる。まして踏まずに帰ってこない人間がいればすでにそこに留まることは難しい。カムイ伝の正助だ。

※)この宗教受容のありかたが、日本人の多宗教容認(外に神があるという感覚の喪失)につながっていたりもするのかな?

かくして場が変わり、一緒に捕えられて踏むのを拒否した3人が海中への磔となっている。いよいよ潮が満ちて息ができなくなるというときに、前の場で結婚した男がハライソの寺の歌を歌う。このシーンは信じがたいほど感動的で驚く。見事な舞台だ。

ついにロドリーゴはキチジローの密告により捕まり、1幕は終わり。

2幕、奉行は以下の条件をロドリーゴへ出す。神父が転べば、その影響は絶大だ。お前が転べば、村人たちを許す。

ミノムシ状態で船から海へ投げ捨てる処刑を前に転ぶから許してくれといいだす村人が登場するが、奉行は認めない。もう遅い。しかしロドリーゴが転べば許す。だが、他の村人たちが、おれたちは喜んでハライソへ行くのだ。パードレは転ばんでくださいと言うのに力を得てロドリーゴは拒否する。

フェレイラ(沢野忠庵)登場。日本人はデウスを大日如来ととらえるし、しょせん、自分の外側に絶対的なものをおくという考え方はできないのだ。お前のやっていることは無駄だから、転んでしまえ。ロドリーゴはやはり拒否する。

最後の夜となり、牢屋に一人いるロドリーゴは呻き声を耳にする。音響として呻き声以外の何者にも聴こえないのだが、ロドリーゴにはそれが牢番の高いびきに聴こえる。

キチジローは告解をさせてくれと牢の外をずっとうろついている。ロドリーゴにはその声も不快に感じる。

忠庵が最後の説得にくる。ロドリーゴは拒否しつつ、牢番のいびきを止めてくれと言う。忠庵は驚き、あれは逆さ吊りにされた切支丹の苦痛の呻き声だと教える。お前は、自分が信仰を捨てぬことで神から認められたいというだけなのではないか。村人たちの苦しみを救っていないではないか。もしイエスだったら、どうすると思うか?

ロドリーゴはここにいたって観念する。

最後の場は長い。ロドリーゴは踏絵の踏まれて汚れたイエスを見て散々ためらった末にそっと足を乗せる。そして持ち上げ抱きしめる。

・原作では、ここで踏絵の中のイエスが感動的な語り掛けをするようだが、オペラではすべては無言のうちに進行する。

沈黙(新潮文庫)(遠藤周作)

なるほどなぁ。傑作だ。


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