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以前買って机の上に放置したままになっていたアルゴールの城にてに手を伸ばし、読みはじめた。
最初に鬱屈した前書きがあって、どうもこの人は「恐怖」についてその言葉を使わずに説明しようとしているのだなぁと考えながら読み進むと、なぜか唐突にパルジファル(という言葉は使わないで)を人は誤読しまくっていると糾弾しはじめる。最後のあたりになり、オトラント城という単語を出してきて、まあそうだよなぁと読みが外れていないことを確認した瞬間に、はるか以前、子供がまだ小学校の低学年か、あるいは幼稚園の頃に話してやった古城の恐怖について思い出した。
当時、別にAAミルンの顰に倣ったわけではないが、夜になると子供が気に入っていたクマのぬいぐるみのくーたんとその他のぬいぐるみを使って話しをするのが慣例となっていた。他の登場人物はオオカミのアル(クレヨンハウスで買ったオオカミのヌイグルミに子供がアルベガサスと名前をつけたが長いのでアルと呼ばれる)とイルカのパクパク(ピンクの首を挟むイルカ型の枕なのだが、下田の水族館でイルカは食いしん坊と聞いたせいで、とにかくパクパク良く食う大喰らいという設定となった。くるくる回るとお魚お魚と大騒ぎしてぱくぱく食べる)。良くシャーコシャーコと包丁を研いではくーたんを追いかける猿のサルコ(一度安達ケ原の鬼婆の役をやらせたのが定着してしまった)。
で、ある日のこと、なぜか怖い話をすることとなった。
「というわけで古いお城にくーたんは入っていった」と始める。おれの頭の中ではオトラント城以外の何ものでもないが、今になって思えば、子供は姫路城みたいなのを想像していたかも知れないな(追記:そんなことはないそうだ)。
暗くて長い廊下を歩いていくと、向うからばかちんばかちんと音がする(バカチンという名前の馬のヌイグルミがいたのだ)。
「バカチン?」
「馬に乗った首の無い騎士だ。ギラギラ光る槍を水平にかざしてすごい速度でくーたんめがけて進んできた!」
「たいへんだ」
「くーたんはあまりの怖さに身体が固まってしまったぞくーたん」
「たいへんだ」
「でも騎士には首がないから目が見えない。くーたんに気付かずに通り過ぎて行った」
「あー良かった」
「これは恐ろしいところに来てしまったぞくーたん(語尾に名前をつけることで、誰の考えか明示している)」
「こわい話?」
「そりゃそうだよ。古いお城にはいろいろなおっかないものがたくさんいるんだから」
「たいへんだ」
「すると向うから、今度はもっと恐ろしいものが出て来た。口にはすごく鋭いキバがはえている! くーたんはブルブル震えて先へ進めません」
「たいへんだ」
「なんと向うから来たのはキバがはえたオオカミでした!」
「ふつうじゃない?」
「うん。オオカミはキバをギラギラさせながら何か食べている。あ、羊のお肉だぞくーたん。おいしそうだなぁ、とくーたんはオオカミに近づきました」
「アルと仲良しだもんね」
「そのオオカミはアルとは違うオオカミだけど、もちろんオオカミだからとってもいいやつだ。そこでオオカミはしょうがないなぁわけてやるぞオオカミと言ってくーたんにお肉をわけてあげたんだ。というわけで二人は仲良く羊のお肉を食べました。」
「よかった」
「おなかがふくれたので、もっと先へ進むぞくーたん。と、くーたんが先へ進もうとすると、オオカミがにこにこしながら、ここから先はおっかないのがいるからやめたほうがいいぞオオカミと言いました」
「しんせつだねー」
「オオカミだからね」
「うんうん」
「何がいるのかくーたん? たとえばだなオオカミ、と言ってからオオカミは少し考えました。実はあまりにおっかないのでここから先へ進んだことがないから、何がいるかまったく知らなかったのです」
「だめなオオカミだねー」
「しょうがないよ。何しろおそろしいお城だからね」
「どうするの?」
「もちろん、くーたんはずんずん先へ進みました。すると!」
「え」
「向うから泣き叫ぶ声が聞こえて来たのです」(もちろんこの時点ではバンシーとか7thゲストが念頭にある)
「たいへんだ」
「なんだくーたん? 誰が泣いているんだくーたん? くーたんはおそるおそる先へ進むと泣き声はどんどん大きくなってきました。いったい何がいるんだくーたん? くーたんはブルブル震えながらおそるおそるさらに先へ進むと、そこには赤ん坊いました。なんと泣き声の正体は、泣き叫ぶ赤ん坊だったのです」(バロンゴングのボスキャラを想定しているので、実はこわい)
「しょうがないなぁ」
「赤ん坊だからね。なーんだ赤ちゃんかくーたん。それじゃあ泣いてもしょうがないぞくーたん。というわけでくーたんはさらに先へ進むと、向うから何やらまっ黒なものが近づいてきました。ついに、まっくろくろすけが出て来たのです」
「ととろ?」
「まっくろくろすけは、こ、こわくないぞくーたん、とブルブル震えながらくーたんが近づくと、それは黒い小さなツキノワグマの子供でした。あ、まっしろしろすけだ(くーたんは白い)。とまっくろくろすけは言うと、毛でほわほわした頭をこすりつけてから、くーたんをブーンブーンとおそろしい唸り声が聞こえてくる秘密の小部屋へ連れて行こうとします。なんだくーたん、変な音がするぞくーたん、こわいぞくーたん、くーたんが嫌がるとまっくろくろすけは、ほわほわの毛をすりすりしながら、なんでーと不思議そうな顔をします。きみはくまでしょまっくろくろすけ? ぼくは人間だぞくーたん(くーたんは何か勘違いしていることになっている)とくーたんが胸をはると、さらに不思議そうな顔をしながら、へんだなーまっくろくろすけと言いながらずんずんブーンブーンの部屋に引きずり込んでいきます」
「わかった」
「くーたんもその音の正体がわかりました。そこには」
「そこには」
「山ほどミツバチがいてたくさん蜂蜜があったのです。二人は仲良く蜂蜜を食べました。」
「やっぱり」
と言う調子で、尖った爪が伸びたおばあさん(お城には爪切りがない)とか、血に飢えたクマ(まっくろくろすけを探して半狂乱になった母グマなので、これは本当に怖い)、カーペカーペという音とともにやってきてあたり一面を痰だらけにする痰を吐くおじいさん(こっちはもっとこわい)が登場しながらまだまだくーたんの冒険は続くのだった(無理矢理10個作ったはずだから、あと3個体いるはずだが忘れた。いずれも当然の組み合わせになっているはず)。
#(追記):子供によれば、まっくろくろすけはマレーグマのようなものを想像していたらしい。あと血に飢えたクマはまっくろくろすけと関係ないグリズリーのような暴れ者らしい。
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