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11/29は新国立劇場のトスカ。
この演出はノルマファンティーニに続いて2回目だが、何度見ても良い。
特に印象的なのは、トスカがスカルピアを殺すところで、手に通行証を持って近づいてきたのに、殺した後、はっと気づき、スカルピアの机のところに通行証を探しに行くところだ。音楽的に時間があくのを埋めるためという意図もないわけではないだろうが、じっくり観察してから情け容赦なく殺すのではなく、どうにもしょうがなくなって近寄って来たところを無我夢中で殺してしまったという解釈だというのが明白になるからだ。演出意図としてトスカを本当に悪意のない芸術家として描いているのだろう。
もうひとつあるのは、最後に聖アンジェロ城から身を投げるとき、しっかりと方向を見定めて地面を睨みつけて飛び降りるのではなく、背中を向けて後ろ向きに落ちて行くところだ(まあ、最後の最後まで密偵とかに話しかけているからという点もあるかも知れないが、強靭な意思による積極的な飛び降りとは見えない)。
トスカのマリア・ホセ・シーリは素晴らしい歌手。スカルピアのロベルト・フロンターリはさすがに坊さん行進曲のところはともかく、轟きわたるスカルピアで圧倒的、カヴァラドッシのホルヘ・デ・レオンは飄々とした感じでこれも良かった。
それにしても、スカルピアの造形は非常に不思議だ。言っていることはドンジョヴァンニとそれほどは違わず(いろいろあるんだから全部食ってみたい)、権力を持って悪意に満ちているところがイヤーゴのような純粋な悪意に比べて下世話で、ジェラールのように理想と妄念で迷うこともいっさいなく、ルーナ伯爵のように恋心があっての話でもない。びっくりするくらい正真正銘の俗物なのだ。この身も蓋もないところが、19世紀もおしまいですなぁということなのかな。
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