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日曜日は新国立劇場でマスネーのウェルテル。
原作は結局読まなかったゲーテの若きヴェルターの悩み。
出版当時は一大ブームを巻き起こして、ドイツ中の若者が青いチョッキに黄色いシャツを着て自殺しまくったというのだから、明治の日本の北村透谷や、三原山の松本貴代子みたいなものだな。時代的には西鶴に近いか。
というのはわりとどうでもよくて、実際、4幕は白いシャツで死んでいく(が、胸を撃ったはずなのに延々と30分近く歌いまくるのがオペラの良いところ)。
ウェルテルを歌ったのは代役でやってきたコルチャックというなんかイーゴリ公に出てきそうな名前の人だが、びっくり。実に素晴らしい。1幕は、曲そのものが退屈だし、あまりピンとはこなかったのだが、どんどん声が出るようになって、3幕のなぜ私を目覚めさせるのかのところは、オーケストラの大音量をねじ伏せるような絶唱で、この音の美しさには感じ入った。(というか、マスネーって曲の作り方がへたなんじゃないか? と思ったが音色が異なるから声も聴こえるように計算しているのだとしたら、これまた大したものだ)
序曲は最初さわさわ始まるのだが、次々とソロが入って実に複雑な音色の不思議な音楽。……フランス風ってことなのかな(マスネーはマノンはよく聴くが、きれいなメロディではあっても、それほどオーケストレーションが美しいという記憶はなかったので、これも驚いた)。
指揮者はこれまた代役のブラッソンという人なのだが、短い期間によくここまでまとめたものだ。オーケストラは東京フィルでうまい。代役された側もブラッソンなので、もしかしたら兄弟だったり父子だったりするのかな。それほどありふれた名前とも思えないのだが。
シャルロットのマクシモワという人も良く、妹の砂川も実に良い。
演出が抜群なのだ。
セットも美しい。1幕は左手に馬の水飲み場がのぞく門、庭、テーブル、ちょっと高くなった場所、そうだ思い出したが、ちょっとユベールロベール(に代表される作風の人たち)みたいなのだ。静かで壮麗だが何か虚ろさがある風景。
2幕の教会の手前の柱がある回廊(なのか広場なのか、アルベールとシャルロットが連れ立って来るのを、柱の陰の闇に隠れて見ているウェルテルの構図とか)、3幕のシャルロットの部屋(なのかな)、4幕の書庫の正面に置かれた本棚(この幕ではじめて、舞台が斜めではなく水平になる。屈折は晴れた)と右手のらせん階段の降り口、いずれもすばらしい。
セットと人の動きと位置関係で心理が見事に描かれる。これは演出のうまさで、2幕までは気持ちが良いアルベール、どうみてもウェルテルが好きでたまらない妹(演技が良いので、この人も海外から連れてきたのか思い込んだのだった。リューや夜叉が池の好演を観ていることを思い出せばうまいのも当然だった)、3幕でピストルをくれという伝言を読んだあとのアルベールの豹変っぷり(エレールは本当にうまい)、どこをとっても完璧だ。
あまりに素晴らしかったので、土曜日のチケットを購入した。もう1回観る。
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