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日々の破片

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2018-04-14

_ セミラーミデ

子供と東劇にメトライブビューイングのセミラーミデ。

まず指揮者のマウリッツィオ・ベリーニが指揮棒を小刻みに振りながら、左腕で大きな流れを示す、どえらくわかりやすい指揮なのに目を見張る。序曲はロッシーニの序曲だ。つまり悪くない。

ロッシーニ:序曲集(ヨーロッパ室内管弦楽団)

(アバードももちろん悪いはずがない)

全然内容を知らないのでオペラブッファかオペラセリアなのかもわからず観始めるわけだが、冒頭、諸国の皇子たちの到着です、となり、なんかトゥーランドットみたいなオペラか? と思うと、まったく違う。

古代バビロニアを舞台としていて、みんなでバール神を称えている。なんかウェルズのタイムマシーンの神みたいだけど、人食いなんだろうか? とか考えてみているが、あとになって考えるとあれはモロコ神だった。

インドの皇子がテノールで歌う。カマレナという人で佳い声。なんだが、いかにもテノールの役(ヴァグナーが完璧にルールを変えるまでは、テノールはタミーノとか音楽教師とか、色物でしかないのだが、これもそれっぽい)なので、ブッファかな? とか思いながら観続ける。

悪役登場し、セミラーミデが女王で、王様が死んだから(悪役が暗殺したことが暗に示される)新たな王を選ぶ必要があるという舞台設定が徐々にわかってくる。

若い軍人アルサーチェ登場。ズボン役だ。

人死にがからんでいるのだから、オペラセリアなのかなぁ。

ライオンキングのマンドリルの役回り(あとで文字通りとわかる)の高僧オローエ(いかにも高僧っぽい名前だ)が良い声で歌うのだが、やはり高僧ということはこいつが諸悪の根源か? と観ている(ドンカルロスにしても、アイーダにしても、魔笛にしても、高僧が出てくれば悪役というのがオペラだからだ)。

唐突に王様の幽霊が出て来て、お前が王様だと、若い軍人アルサーチェが指名される。そして通り過ぎていく。

みんなが混乱する。したがって、嵐がきて、ヘラジカヘラジカヘラジカッタラチャンチャカチャンと、いつものロッシーニ音楽が流れて、なんだこれ? となる。

幕間に、高僧が自伝を出版したことを宣伝。12歳のときは刑務所にいた。でも今はオペラ歌手をやっているんだ。みんなも希望をもって努力しよう。

2幕になって衝撃の事実がばんばんわかってくる。

死んだから次の王様を選ぶから諸国から皇子を呼んだというが、死んだのは15年前と、えらく悠長な話とわかる。

さらにボーマルシェもダポンテもはだしで逃げ出す衝撃的な事実の連続攻撃が起きる。でたらめ極まりない。

高僧は実は悪役ではなく、牛若丸に対する高野山の高僧の役回りということが明かされる。

そして真犯人と、若い軍人アルサーチェの出自が明らかになる。

暗闇の中でアルサーチェと悪役の殺し合いが起きる。手ごたえあり! なのだが、舞台の上は明るいからこれまた無茶苦茶だ。

女王セミラーミデの思い付きで結婚が決まって大喜びしていたインドの皇子の大喜びがぬか喜びに変わってしまい、哀切極まりない名曲を素晴らしい声で歌う。物語としては屁の突っ張りにもならない皇子だが、歌はばんばん飛び出してくるんだな。

みんなの頭が混乱して、ヘラジカヘラジカヘラジカッタラチャンチャカチャンとロッシーニ節でまとめる。

なんだかなぁ……

おもしろさは抜群だし、歌のサーカスみたいなおもしろさも抜群だし、ヘラジカヘラジカだし、嵐もあるが、おれがベートーヴェンなら、きみはブッファが良いねぇと言うところだ。

というわけで、ロッシーニをロッシーニとして存分に楽しめた。

それにしても、シェークスピアは偉大極まりない。ハムレット(1600年頃)のハムを台本作家に食わせたいところだった。セミラーミデは1823年の作品だから200年たって、大傑作の悲劇がロッシーニになったのだな。(なんと原作はヴォルテールなのか)


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