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日々の破片

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2019-02-09

_ 500年の航海

友人に誘われてイメージフォーラムで500年の航海。監督はキドラットタヒミックというフィリピンのアーティストで僕は完全に初耳初見だが、悪夢の香りという作品で80年代には知れ渡っていたそうだ。知らんかったな。

で、160分という長尺ものでびびったが、抜群におもしろくて驚いた。世界は本当に広いもんだ。160分の中は2つに分かれていて90分くらいの作品と、ほぼ同尺のディレクターズカットで構成される。

エンドロールが出た後に、いきなり作家本人が出てきて、きみたちディレクターズカットを観たいだろ? 特にラストがいいんだぜ、とか言いながら観点を変えて(というかメタデータをつけながら)ディレクターズカットが始まる。これがまた抜群におもしろい。確かにおもしろい作品は2回観た方がよりおもしろい。

_ 500年の航海続き

物語は世界で最初に世界一周を成し遂げた男エンリケの帰還で始まる。

帰路、猪がやってくることがわかり樹の上に逃げる。そこに張りぼての猪が出てきて樹を倒そうとする。

エンリケはフィリピン発祥の武器と17世紀のフランスの文献で紹介されているヨーヨーを使って猪を倒す。

このシーケンスの圧倒的な映像(タヒミック本人が演じているらしい樹上のエンリケとちゃちな張りぼての猪を切り替えてヨーヨーするだけなのだが、べらぼうにおもしろいのであって、凄まじいSFXというような意味ではない)にまず驚嘆した。すげぇおもしろい。

その後、山岳民族であるエンリケが毛布を追っかけて崖から落ちたところを海賊に捕まりマラッカの中国人の老婆に売られて、皿を割って折檻されて箱に隠れたところをマゼランに見つかり箱ごと買われるところから彼の世界一周が始まる。ディレクターズカット版だと毛布をパラシュートのようにしてエンリケが飛んでいるとんでもなくばかばかしい絵を見せてこちらもおもしろいが、本編の単に崖を映してナレーションだけで済ませるほうがそれっぽい。

マゼランは金がないので、木彫り技術をものしているエンリケを修道士に貸し出す。聡明なエンリケは修道士に教えられて鼻をアジア風からギリシャ風に彫ることをすぐにものする。さらには、免罪符を売るための見世物になったり、ボッスの絵の白人の美女を誘惑する茶色い獣のモデルになったりする。というあたりで、現実が超していく。

エンリケと王女の醜聞を恐れたカルロス1世によってマゼランは世界一周の資金を手に入れる。

マゼラン海峡はいまは35時間で航行できるが、マゼランたちは99日もかかった。このときものを言ったのはエンリケの望郷の念から来る方向感覚の正しさだ。世界で最初の人間GPSである。

ついにある島でエンリケはマゼランに言う。

だんな、おれはここの連中が何をしゃべっているか理解できる!

おお、やったなエンリケ。つまりお前は世界を一周したのだ!

マゼランは自分の死後はエンリケを自由にするという遺書を作る。

竹を使った楽器で悪いマゼラン一行を追い払おうとする半シャーマンのラプラプは音楽攻撃が通用しないとわかると戦闘に突入する。

マゼランは聖セバスティアンのように死ぬ。エンリケは故郷へ向かい、村人に歓待される。宴は世界一周を祝うのではなく、母が息子と再会できたためであった。

エンリケは文字が書けないので記録を彫刻に残す。

一方、記録係のピガフェッタは航海記を売るために努力する。

その家には世界中から集められたさまざまなもので埋められている。

エンリケの庭には世界中から集められたさまざまなもので埋められている。家の中にステンドグラスの1部がある。

その1部を外したステンドグラスがピガフェッタの家にある(かな? 顔の部分が抜けたステンドグラスも映像モティーフとして繰り返し出てくる)。

竹寺。

鉱山法に反対するデモ。警官隊に対して抗議の意味を説明するタヒミック。

海岸で石を拾っていると突然の眩暈で倒れる。山岳には石で彫刻を作る人と、樹で彫刻を作る人がいるのだ(と、後でわかる。なんで石を拾っているのかと思ったけど、実際は単に海岸で何をするか、石を拾うかと現実を超克したのだろう)。

それを見つけた白人の写真家が助けに行く。

棚田の道を狭い歩幅で帰る。(青々とした棚田のときと、収穫後の棚田のときの2回)

この老人を探したい。アーティストの集まりに向かう。英語で話しかけられて、おれもフィリッピン人だよ、なんだそうなのか。ビンロウを噛む。紅くならないように注意。

夫婦で言葉が違うので子供にそれぞれの言葉を教える。パチンチンという言葉があまりにもパチンチンでおもしろい。

人種のるつぼっぷりにびっくりした。これまで見たことがあるフィリッピンの人たちがわりと南方諸島の人っぽいので、そういうものだと思っていたら、東アジア系から白人そのものまでなんでもありなんだな。

いよいよ写真家は老人の居場所を突き止める。

拾い歩幅で棚田を進む(ここでは青々)。

誰だ?

エンリケだ。と写真家。

そうか、私はマゼランだ、と老人。

500年の航海が終わる。

すべてのシーンが刺激に満ちている。おもしろかった!


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