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日々の破片

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2021-04-22

_ 高卒マンガと中卒マンガ

コミックバンバンのコインを使って全巻無料シリーズでちまちまと読んでいても、朝4+1、夜4+1、深夜5で1日に1巻相当を読めることもあって、頭文字Dと将太の寿司を読破した。

どちらも、連載時にはマガジンは読んでいない(チャンピオンだった)ので話に聞くだけだったが、読んでみればおもしろいものだ。

頭文字D(1) (ヤングマガジンコミックス)(しげの秀一)

で、なんとなくではあるのだが、頭文字Dの主人公は貧乏な豆腐屋の息子なので高校を卒業したら運送屋に就職して夜な夜な峠を走り込む(というか、父親の手伝いで早朝に豆腐を配達するというか、もっとも後半はツアーに参加しているところしか描写がないので本当に仕事をしているのかは怪しい)し、将太は家業の寿司屋が潰されそうなので中学を卒業したら東京の鳳寿司で修行を始めるとか、まったく大学とは縁がないところが共通していておもしろいと感じた。

どちらも1990年代だから、2020年代の大学進学率が過去最高の54.4%よりも低いわけで、人口比で考えれば少しもおかしくはないのだが、これまで意識していなかった主人公の学歴になぜ引っかかったのかと考えた。

もちろん最初に読んだ頭文字Dのせいであって、後から読んだ将太の寿司はそういう設定でOKなのだが、頭文字Dに引きずられて、おやこっちの主人公は中卒かと思ったのだろう。

ということは、頭文字Dのリアリズムが凄いのだった。なぜ高校生なのにドリフトの天才児なのか、それはこういう境遇で親父がこうい訓練をさせたからで、そもそも親父とその仲間がこういう具合で、と、物語の構造がうまいのだ。

いずれにしても、どちらの主人公にも共通しているのは、事前の徹底的な調査(片や峠のどのカーブがどうなっているかと、片や現在の市場にはどういう魚が出回っていて米の産地はどこだとか)と構想(どういう組み立てでタイヤやエンジンを抑制しながら攻めるか、どういう組み立てで魚と米を寿司に仕立てるか―特に10貫勝負のようなやつ)、設計(どういうコース取りでカーブへ入ってどこで減速してドリフトさせてエンジンを何回転まで持ち上げるか、この素材をどう調理してどう調理した米と組み合わせるか)、実装(実際のハンドル、ブレーキ、アクセル操作と、包丁捌きと火加減と握り方など)が抜群なことだ。

何かをするときに、調査して構想して設計して実装するといえば、おれの仕事でもあるプログラミングも同じことだ。

使えるリソースと成果物が求める速度(実行時と実現化までと両方)については調査と構想(アーキテクチャ)が必須で、それを具体化するためには設計が無ければ話にならず、それだけではもっと話にならず実装する必要がある。

こういうことは大学で習得することのように漠然と思っていたが、そういうわけでもなさそうだ。(というか、知り合いに高卒の人もいるが当然のように全部できているわけだから、それほど学歴は関係ないのは知ってはいる。おそらく高速道路に乗ったか乗らないかとかの違い程度なのだろう)

というか、マンガ家の仕事がまさにそうだった。その点において、どちらの作品も調査から実装まで完全に行われていて、作中との二重構造になっている点がおもしろい。

【極!合本シリーズ】 将太の寿司1巻(寺沢大介)

とはいえ、将太の寿司で読んでいて本当におもしろかったのは、後日談のような鳳寿司の新親方(元の話では意地悪なアザミさん経由で巨大なラスボス)の息子のエピソードだった。

本筋とは関係ないが、将太の寿司の恋人はウィーンに音楽留学してそれなりの成績を収めているのに、コンサートピアニストはおろかピアノ教室の先生すらしていなさそうで、そこにはすごく違和感がある。


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