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@ma2がFBでおもしろそうなことを書いていたので買った。しばらく寝かせて10%読んであまりのヘヴィーさに辟易してしばらく寝かせて、その後は一気読み(要は最初の10%はすごく読むのが辛かったのが、女主人公の背景事情の説明が済んで、男主人公が出てきたところからやたらとおもしろくなった、ということなのだった)。
何しろ読んだ本紹介を書いていたのが@ma2だから、なんとなくバイオSFかホラーだと(網という漢字から網膜を連想してしまうからだと思う)思っていたら、スペキュレイティブなSFではあるが、むしろ推理小説だった。
タイトルの網内人って、インターネットの中の人という意味だったのだな。
中共本国から香港に逃げてきた両親を過酷な労働の果てに失い、自分も妹のために一所懸命に働いて今は図書館に勤めている女性が主人公。
で、最初の10%はその過酷な労働/生活/経済環境と、妹の痴漢被害→加害者の甥を名乗る男のSNSへの扇動→大炎上→身バレ(といっても被害者なんだけど)→自殺という実に不愉快極まりない背景が10%なのだった。
かくして姉は復讐の鬼となり、そもそもの原因らしきSNSへの書き込んだ甥を見つけようとする。普通の(とても良い人な)探偵を雇うが、網内の捜査はおれには無理と断られて、かわりにアニエと呼ばれる謎の男を紹介される。
で、当然のように訪問するとアニエというのが実に奇妙な男なのだった。
というか、中年男の一人暮らしとか、えらく乱雑な部屋に住んでいるという徹底的な違いはあるが、絶対これ、ゴルディッシュだろ? とおれの頭の中ではゴルディッシュになっているのだが。
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飄々としているわりに勿体つけて三顧の礼をさせたりもするのだが、出会ってすぐにヤクザに二人そろって拉致、しかしあっと驚く手品のような手法で、ヤクザを退散させて、読者に対する掴みもばっちり。
インターネットの中の人を調査するとなれば、当然のように、アニエはハッカーなのだった。
ところが、女主人公は頭は悪くないが学も教養もない単なる会社員(司書ではない)で、後のほうで他の登場人物に切れがないもっさりした田舎女みたいに評されたりするくらいだし、そもそもスマホもなければコンピュータも持ったことがない人なので、アニエが何かしようとするたびに質問が入り、それにアニエがいちいち全部、説明をする。そもそもプロバイダーとは、の前にそもそもIPとは、というかIPアドレスとは……で、これがそれほど悪くなくて、冗長さもない。
さらに、話が進むと、強力極まりないドローンやら超単一指向性スピーカーなどあらゆる機材を駆使して、犯人を絞り込んでいく(でも、本書がおもしろいのはこういう細部ではないが、細部そのものもおもしろい)。
比較的最初の頃、腹を減らしたアニエが女主人公にテイクアウトを頼むシーンがある。
大蓉加青扣底湯□上油菜走油という料理なのだが、なぜか作者は(あるいは気を利かせた翻訳者が)それを説明する。大蓉は大盛の意味で、加青は葱ましまし、といった具合だ。要はひねりを利かせた注文らしいが、これにはしびれた。
ハッカーズでグリーンブラット(だと思う)が、中華料理をハックしてとんでもない料理を注文するところを思い出したからだ。作者は、絶対、ハッカーズを読んでこのシーンを書いただろう。掴みは抜群だ。
で、まあ人情噺があったり、どうでも良い説教があったり、なるほどサンダーバードみたいなところもあるが、おもしろかった。
網内教養小説としては抜群ではなかろうか。
ただ、どう読んでもおかしなところがあって、2部では犯人の兄としている人間が、3部ではどう転んでも別人になっている(体型も中肉中背から、ちびの小太りに変わっている)。
最初、読者に犯人捜しと別件の捜査というか罠の並行ストーリーを読ませて混乱を狙っているのかな? と好意的に解釈してみたが、読み直して(Kindleだとスピードが遅くて地獄の作業だ)みても、途中までは同じ人物として書ききっている。
どうも人情噺とプロットの整合性が取れずに無理矢理別人設定にしたのではないかと疑わざるを得ない。
が、まあそういうこともあるだろうな。
いずれにしてもおもしろかったので他の作品も読んでみるつもり。
そういえば気になったのは、女主人公が金策のためにAVに出るか考えているところで、アニエに、ここは東京じゃなくて香港なんだからそんな3枚1000円のパンツを履いた女の出る幕はないと嘲笑されるところがある。香港ではセレビーな職業なのかな? それとも東京は安いのかな。ただ、風物的なところでは韓流や日流を良いもの扱いしていたりするので、東京AVを小馬鹿にしているわけでもなさそうで良くわからん。作者が日本のAVを見たら安いパンツを履いている女性が出て来てそれがやたらと印象的だったのかなぁ。
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