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日々の破片

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2023-02-04

_ メトライブビューイングでめぐりあう時間たち

東劇でめぐりあう時間たち。作曲はケヴィンプッツという人でおそらくこれが初めての人。

キャストが、ルネ・フレミング、ケリー・オハラ(メリー・ウィドウは良かった)、ディドナートと豪華布陣だが、元々ルネ・フレミングの発案で作品の制作そのものが決まったみたいだからピーターゲブルとしても力を入れまくったのだろう。

妻に何を観に行くのかと聞かれてめぐりあう時間たちと答えたら私も観たとか言い出すのでどういう意味かと思ったら映画化もされていたらしい。

物語は花は私自身で買うというコーラス、街の雑踏、1999年ニューヨークで幕を開ける。天使なのか死神なのか、物語に芯を通す役らしきラクダ色のコートを着た黒人歌手(ファルセットなのかソプラノなのかわからん)が良い。

中央にルネ・フレミングが登場。サリーというパートナーと一緒にパーティーの準備をしているのだがどうも話し合いがギクシャクしている。編集者でかっての恋人(どうも病気で長くないらしい)の作品の授賞式の前に内輪のパーティーを開こうとしている。音楽は普通の穏やかな無調で最近のオペラはだいたいこんな感じだな。外に出るとダロウェイ夫人と呼ばれるがその呼ばれ方は好きではない。彼とは夏の終わりに別れを私から切り出した。田舎者のルイスを愛しているのが明らかだった。花屋と熱烈なキスをする。

低音の繰り返しが印象的。

上手にディドナート登場。ダロウェイ夫人の冒頭が決まらない。朝食を巡って夫とのやり取り、女中はひどい扱われよう。森へ散歩へ行く。音楽は普通に流れる。

音楽がスチャラカすると50年代アメリカっぽいパステルカラーの室内が下手に登場。ケリー・オハラは今読んでいるダロウェイ夫人をあと1ページ読みたくても子供が邪魔をし夫の見送りをしなければならない。あの人は浮気をしているのかしら。ケーキを作るが子供は自分の思い通りには行動しない。友人が入院中に犬(かなぁ)の世話を頼みにくる。キスをする(花屋とニューヨークのとは雰囲気が異なるが、考えてみるとキスはこの2回が印象的で、どちらも女性と女性)。荷物をまとめて子供を預けて出ていく。舞台の色合いとは異なり、音楽をあえて薄っぺらにしているように感じる。

交互に物語と音楽を溶け合わせながら進む。ルネ・フレミングがパーティーの主役のリチャードのアパートを訪ねる。顔に斑点のメークをしているのでエイズなのだろうなと思わせる。君と過ごした一夏を思い出す。

2幕の冒頭でルネ・フレミングとディドナートの2重唱。

ルイス登場。リチャードのアパートを見上げている。そうか、ルイスの苗字はウォーターズで、ヴァージニア・ウルフの最期の川や一夏の海、花には水などいろいろ象徴する役回りなんだなと今気づいたが端役ではなく君を憎んでいるとルネフレミングに向かって歌いまくる。リチャードは僕の体を愛したけど、それ以外のすべてで君を愛していたんだ。彼の小説は読んだ? 読んだ。500ページの中のすべてが君のことだ。僕のことは3ページ、でも最後にちょっと言及される母親に比べればましだけど。

物語の構造が見えてくるので、やはりルイスは重要な役回りなのだな。

リチャード、窓に腰掛けている。ルネフレミングとのスリリングな会話。さすがに90年代末なら抑制剤もできている(レントよりも後の時代だ)と思うが、それ以外にも薬(これで感染したのだろう)やらなにやらいろいろやりまくっていたので今更どうにもならないのかも知れない。

詩人を殺し、夫人は生きることにヴァージニア・ウルフは決める。

主役不在のパーティにリチャードの母親がやってくる。まるでばらの騎士のような三重唱。

ダロウェイ夫人(ヴァージニア・ウルフ)

幕間の舞台美術の意図説明がおもしろい。ヴァージニア・ウルフの家はナチュラルカラーで合唱団は書物。ケリーオハラの家は50年代ポップで合唱団は台所用具。ニューヨークの合唱団は花。

特に言及はなかったが、ヴァージニア・ウルフの舞台はほぼ地に着いている。ニューヨークは上下する。ケリーオハラはたいてい宙に浮いている。特に逃げ込んだホテルの部屋は高い位置にある。ページボーイが、ニューヨークの謎のラクダ色のコートやヴァージニア・ウルフの女中のように振る舞う。

ケリーオハラが家を出た後、魯迅が考えるノラのように過ごしたのかどうかはわからない。第2子は本当に存在したのだろうか?

これは良いオペラだった。


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