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嘉平さんにAbout Face 3をもらったので、読み始めた。全部で570ページくらいある大著だが、とりあえず100ページほど読んで十分におもしろかったので、まずはそこまでについて。
About Face 3 インタラクションデザインの極意(Alan Cooper)
著者はVBの父ことアラン・クーパーを筆頭としたCooper社の人たち。デザインコンサルタントという感じかな。問題は、この「デザイン」の対象領域ということになる。ペルソナはこのあたりから出てきた考えらしいし、本書の中でも大きく扱われているのだが、それは100ページを越えたあたりからなので、まだ読んでない。
最初に、テーゼがある。脱工業化の時代であるという時代規定だ。脱工業化において重要となるのは、デザインが物理モデルを伴わないことだ、つまり、押したら押される引いたら引かれるということは、もう、ない。そこで、インタラクションデザインという考えを提唱することになる。
というわけで、この本は、顧客要件から実際の製品(ただしユーザービリティ検証まで含むかどうかは微妙)の間で、絶え間ないフィードバックを開発者(いわゆる上流から下流まで、まんべんなく)へ送り続けるデザイナー(コンサルタントと言っても良いね)のための本ということになるのだが、これはアーキテクトの仕事でもあるべきだなぁ。
次に、ターゲットを明確にする。
ユーザーのゴールを2つに分類する。Blogとか日記システム(tDiaryもそのひとつだ)を製品と仮定する。ユーザーのゴールは表面的には、日記をつけて、それが日付で分類され、どうしたこうした、なのは論を待たないけど、そこはあまり重視しない。自明だし。ユーザーのゴールは、「私はバカではない」と感じ、征服感を満足し、気持ちを高揚させることだ、と想定する。明言してないが、どんなものであってもゴールは、ユーザーがバカにされたような惨めな気持ちになるのではなく、征服感、達成感、おれってスゲー感を味わうこと、と決めているようだ。
そういう目で、ソフトウェアを見ている?
したがって、デザインのためのインタビューアプローチも、そこまで踏み込む。顧客とユーザーの区別もしている。かつ、ユーザーのことは一切、信用しない。彼らのアイディア(不満があるはずなので山ほど出てくる)、デザイン要求(同じく)、テクノロジー要求(同じく)、全部、せいぜい参考にするくらいで無視する(とまでは書いていないが)。ではなんのために、それをやるのかといったら、モデルを得るためだ。
ここで、3種類のモデルが示される。
1つは実装モデル。XXという機能を持つYYと聞かされたとき、頭に浮かんでくるあれだ。3で割り切れたらFizz、5で割り切れたらBazz……というプログラムを作れ、と聞いたら出てくるものが実装モデル。
で、これはデザインの参考には、いっさいしてはならない、とする。
実装モデルが極北であれば、極楽に来るのは、脳内モデルである。これが重要で、いかにこれに近づけるかが、デザインに決定的となる。
脳内モデルは、ユーザーの心象だ。つまり、おれってスゲーを味わっている姿のイメージである。
心象なので、そんなものは伺い知ることもできず、かつ、千差万別であり、言葉にすれば、「おれってスゲーを感じて満足しているわたし=ユーザー」というパターンであるが、もちろんそれをデザインに落とし込む必要がある。ちなみに、謝辞にはアレグザンダーが筆頭に出てくる。パターンランゲージからの影響は大きい。
かくして、デザイナーは、実装モデルと脳内モデルの間をつなぐ表現モデルを作ることになる。
ここは、興味深い。
プログラマー的な発想とは逆だからだ。抽象度が高いのは脳内モデルで、抽象度が低いのは実装モデルだからだ。プログラムはもっとも抽象度が低い存在である。
つまり、一段上のレベルの界面を扱っているということだ。
はい。すぐ頭に2人のスティーブが浮かぶ。ウォズは実装モデルしか持たない。すがやみつるのこないだ公開されたマンガだと、えーケースに入れるの? なぜ? というやつだな。(ちょっと違うかも)この男の表現モデルはApple Iの生ボードだろう。
一方ジョブズは、脳内モデルに極めて忠実な表現モデルを作れる男だ。そういうことだ。
ここでユーザーを正しくセグメンテーションする必要がある。もし、Appleのユーザーがホームブリュークラブの連中だけならば、脳内モデルはウォズの実装モデルとほぼ等しいはずだ。したがってジョブズはそれほど必要ない。
かくして、この本がターゲットとしているのは、マスを相手にするためのデザインということになる。
そのために、この本は次の切り口を使う。初心者ユーザー、中級者ユーザー、上級者ユーザー。
そして、コアデザインは中級者をターゲットにしなければならない、と規定する。
なぜならば、初心者は、次の2つの行動を取る。あきらめてユーザーにならないか、あるいは中級者に移行する。したがって必要なことは、あきらめずにちょっとがんばれば中級者になれるというビジョンを与えることだ。
一方、上級者は必要なので上級者になったのだから(しかし、その数はごく少ない)、適当なエサを与えておけば良い。しかし、上級者は実に重要で、彼らが勧めると、初心者は、自分たちの利用方法とはまったく異なり、確実にそこへ到達することはあり得なくとも、それを基準に判断するし、初心者がいなければ中級者も生まれない、したがって高級者上級者をつなぎとめる策略は必要だ。
つまり、ユーザーは基本的に中級者で、かれらは怠惰なので上級者にはなれないし、しかし自分たちは初心者ではなくおれってスゲー感にあふれて幸せでなければユーザーではなくなってしまう。だから、中級者のためにデザインするのだ。
うむ、ジョブズだね。(Lispの人や関数言語の人−プログラミング言語市場における上級者-がRubyを評する視点もここらへんにありそうだ)
うまいたとえとしてスキー場経営の話が出ている。
初心者用のなだらかな斜面は用意が絶対に必要。しかしすぐに中級者になってもらうために、かれらが中級者の視線を意識せざるを得ないように追い込み、かつ、本当に簡単に征服できるように仕込んでおく。
ゲレンデのほぼすべてをいくつかの段階をつけた中級者用のバラエティに富んだゲレンデで構成する。そんな彼らがふと気づくと、そびえ立つ崖のような急斜面とそこを滑降する上級者を眺めざるを得ないようにし、いつかはああなれれば良いけど、あそこまでいかなくとも、(と初心者用ゲレンデを眺めて)おれは十分にいかしているし、でももう少しがんばると、あっちの上級者用ゲレンデで滑ることも可能かも知れないなぁ、とか考えられるように設定する。もちろん上級者は、きわめて冒険的で、しかもほとんど人が来ないゲレンデを思う存分滑降して楽しめるようにする。でも、元々人口が少ないのでほんのちょっと作れば十分だ。
と、こういった内容で、いかにデザインを決定するのか、そもそもデザインは何をターゲットとした誰をターゲットとするのか、についてレクチャーしてくれる。
扱う領域は定量化できない領域なので、いかに定性的に分析するか、そのためには民族誌アプローチが有効とまでしている。
この本は説得力がある。しかし、内容を極めるのは無理っぽい。かくして、本書を手にして中級者となったクーパー社の潜在的な顧客は上級者たるクーパー社に仕事を依頼することになる、という入れ子構造の本だな、とも思うが。
なかなかそうは思っても怪しく感じることでもあるので、実装モデルと脳内モデルが直結している人(おれもそうだ)にこそ、この本はお勧めのように思う。
ジェズイットを見習え |
おもしろそうな本ですね。<br>正直ヒゲメガネ氏の書評では食指が動かなかったんですが、読みたくなりました。<br>スキー場でのたとえは似たようなことをちょっとだけ考えたことがあるので特に。<br>ところで<br>>したがって高級者をつなぎとめる策略は必要だ<br>この高級者って上級者の間違いですか?
〉高級<br>あちゃー。車扱いですね。後で直します(今、携帯なので多分読み込めない)。