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日々の破片

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2016-12-01

_ ミヒャエル・コールハースの運命

以前古書店で購入したクライストのミヒャエル・コールハースの運命-或る古記録より を読了。

最初の20ページ弱にえらく難航したが(一度読み始めて放置していた)、突然シュトルム・ウント・ドランクッがやってきた。

あっという間に引き込まれて読了(もともと100ページちょっとの薄い本なのだ)。

例によって、シラーのドンカルロス-スペインの皇子を探していて見つからないので代わりに買ったのだ。

誠実にして温厚な長者である馬喰のミヒャエルコールハースは部下を連れて国境(神聖ローマ帝国なので各王国は異なる国なのだ)を越えようと、かねて懇意にしてもらっているサクソニア国境(なぜサクソニアなのかは、クライストの反ナポレオン愛国意識からライン同盟を敵視しているからだと解説にあった)に入ったところのトロンカ公の城を訪れる。

すると先代はみまかっていて、公子が当主として采配していた。

そこで無理難題を言いつけられ、結果的に馬を止め置かれてしまい、世話役が必要と部下も軟禁されてしまう。

ドレスデンで所用をすませ戻ると、見事な名馬中の名馬の黒馬3頭は無残に痩せ衰え駄馬中の駄馬と変じている。どころか、屈強だった部下も、無残な姿となっている。

コールハースは憤然とドレスデンの裁判所に訴える。

が、トロンカ公子(と表記されるが、現在の当主なんだからトロンカ公のような……)の親類縁者はあらゆるところにいて、すべて棄却されてしまう。

懇意のドレスデン市長(かな)がとりなしを約束してくれるが、訴状が選帝侯の目に届く前にトロンカの親戚の侍従によって、これも握りつぶされる。

それではと、選定候へ直訴しようと財産を片付け始めると(善良なるコールハースは、トロンカの理不尽を法律で裁きたいのだ)、妻のリースベトがそれを止める。自分がベルリンへ行き訴える。おそらく女の私のほうがその役にはふさわしい。

しかしリースベトは宮廷で直訴する前に事故と見せかけて殺されてしまう。

ついにコールハースの善良なる精神を怒りが突き破る。突破者の誕生である。

部下10数名を引き連れ騎馬隊を結成、サクソニアに入るとトロンカ城を制圧、火をつけ、殺戮を開始する。

しかしトロンカ公子は掛け軸の裏の抜け穴から炭小屋経由で叔母の営む修道院へ逃走。

コールハースはさらに反逆の徒や化外の民を巻き込みながら数100人規模の軍団となり、各地を制圧、放火、殺戮を繰り広げながらトロンカを追い詰める。

殺戮、放火で苦しんでいるにも関わらず、サクソニアの人民は、本来のコールハースの善良篤実さとトロンカ一族の無法っぷりを知っているため、むしろコールハース反乱軍に対して好意的ですらある。

(ここで次々と繰り広げられる各地の制圧と、国家側の軍隊との戦闘っぷりが、がまさに疾風怒濤(というキーワードもちゃんと出てくるが、執筆時期は19世紀に入っているのでクライスト自身はシュトルム・ウント・ドランクッではない)でむちゃくちゃにおもしろい。まるで曹操のチンタオ制圧のようだ)

たかが下郎1人に国家を荒らされ、貴族の命が付け狙われていては、しめしがつかぬ、とサクソニアの宮廷は大騒ぎとなる。

そこにマルティンルター登場。

コールハースについて、裁判所によって却下された訴えを逆恨みして悪逆非道の限りを尽くしていると吹き込まれたルターは、コールハースに対する弾劾状を記し、ビラ撒き攻撃を開始する。

それを読んだコールハース、愕然として深夜単独でルターを訪問。

驚くルター(こいつ、すごく嫌な奴だが、それでも正義の人ではある)にトロンカの理不尽を説く。

ルター、コールハースを許しはしないが、選帝侯への取次とそのための大赦(天下の極悪人として今や知られるコールハースを安全に選帝侯と会見させるためだ)のために労をとることを約束して、コールハースを家から追い出す。

かくしてコールハースは晴れてサクソニア選帝侯のもとで正当な裁判を得ることができることとなる。

裁判官は公平無私な人であった。彼はコールハース側に立ち、トロンカと裁判の公平を破ったその一族を強く弾劾する。

市民はみな、コールハースの味方だ。

すべてはコールハース有利へ傾く。トロンカは社会的に抹殺されようとしている。

しかしコールハース本来の善良さと公平さのため、彼は賠償金ではなく(殺された部下の遺族のための年金のようなものは要求する)、黒馬の原状復帰を要求する。

ところが黒馬たちはトロンカの逃亡のどさくさに紛れて羊飼いへ売られ、あまりの駄馬っぷりに今や皮剥ぎの持ち物となっている。

この皮剥ぎの親方の無法っぷりが原因となり、市民感情は反コールハースに傾く。

さらに悪いことに、軍団解散後に主導権をとった一部の悪党が、コールハース(今や国民の間では人気者である)の名前を騙って、相変わらず放火、略奪、殺戮を繰り返す。

ここに目をつけたトロンカ一族の貴族らしい見事な陰謀が張り巡らされ、善良にして高潔たるコールハースが罠にはまる。

ついに大赦されたはずのコールハースは灼熱の大ばさみで肉をむしられる極刑を宣告される。だが、コールハースはひるまない。自分は火をつけ、無辜の民を殺戮した。それは甘受しよう。しかし黒馬を返せ。

話が変わったためにルターや、コールハースの味方の市長などが心を痛める。ついにブランデンブルク選帝侯(登場のシーンで、脳裏にバッハの協奏曲5番が鳴り響く)を動かし、国と国の話となり、ローマ帝国皇帝に裁可を求めることにまで話が広がる。

サクソニア選帝侯としては、トロンカ一族の横暴を知ったために、今やむしろコールハースの味方であり、外国人(コールハースはブランデンブルク領の国民なのだ)のコールハースの運命をベルリンへ委ねることに賛成する。

話は唐突にサクソニア選帝侯とブランデンブルク選帝侯が過去に怪しい占い師に占われた話に飛ぶ。なぜかサクソニア選帝侯の運命を記した紙は、コールハースが持っているのだ。

ぐだぐだした後、コールハースの遺族などに対する賠償は正しく行われ、その一方でコールハースは斧による斬首が決定される(これは圧倒的に軽い刑なのだ)。

占いの紙を奪うために処刑場にこっそり入り込んだサクソニア選帝侯の目の前でコールハースは紙を取り出し、読み、食べる。もう、サクソニア選帝侯の手には戻らない。

そしてすべてを完了して生をまっとうして正義を貫いた人間として首を斬られて死ぬ。

ミヒャエル・コールハースの運命―或る古記録より (岩波文庫)(クライスト)

クライスト(それにしてもWikipediaによれば「世間からも認められないクライストは自殺を決意し、癌を患った人妻ヘンリエッテ・フォーゲルと共に1811年11月21日ポツダム近郊のヴァン湖畔でピストル自殺した」とまるで太宰治のようだ(まあ絶望の度合いと方向性は相当違うようだが))の作品はシラーのように自由を希求したりはしない。むしろ、秩序を求めているように読める。ルターやブランデンブルク選帝侯の尽力で解決するという点では反動的ですらある。にも拘わらず、(片や自由、片や正義と異なるが)何かを求めて反逆の限りを尽くす点で共通しているのがおもしろい。


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