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通勤中にぽつぽつ読んでいた岩田規久男の日銀日記を読了。
ここ数年のお金の動きが手に取るようにわかるという点でおもしろかったし、困難に知力で立ち向かう点が感動的で大いに力づけられる。
今の日本の政治と経済、これらが世界や世代や(ある意味)文化とどうかかわるかといった多角的な意味からもすさまじくおもしろい。
最初はとにかく日銀が2%にコミットするという点に集中される。就任前から安倍がデフレ対策をすると明言したことが好感されて円安株高へ向かいつつあるためにシナリオ通りの動きに見える。
ここで、内閣(安倍自民党)-官僚(財務省)-日銀が基本的には節度を守ってお互いの領分でそれぞれの政治を行うということが明示される。相当驚いた。内閣と官僚は不可分かと思っていたし(が、考えてみたら民主党政権時にむしろ平然と敵対することがあるということもわかっていたな)、日銀-金融庁-財務省というのはなんとなくだが関連していて同調するものだと思っていた。
うまくいってはいたが、黒田が消費税増税を容認どころか増税しなければどえらいことになる(=岩田から見ると理論的に正当な根拠がないので「どえらいことになる」という雰囲気語が多用される)発言のせいで、増税を不安視していた内閣も増税に傾き(ここは驚いた。そうだったのか)、実施(このあたりで財務省に対する怒りがいろいろ出てくる。黒田さんも財務省出身だけに、とかぽつって出て来たり)。
いっきに経済が奈落へ落ちる(おまけに原油安が落ちたうえから土をかける)。
あとはどこまで掬い上げることができるかが焦点となる。
・自民党の悪口は基本的に書かずに、邪魔をする政治家の例はすべて民主党にするところが意図的でおもしろい。
・財務省の宣伝に日銀が負けているのがなぁみたいな愚痴がときどき出てきてなかなか興味深い
・というか、インフレになれば、大打撃を受けるのは年金生活をしている人や生活保護を受けているような人、つまり収入のベアは期待できず、雇用が改善しても年齢的に就業が社会的にできない人たちで(ここまではわかっていたようだが)、この層が1/3を占める(ここは消費税の影響があまりに大きく長引くので各種報告を読んではじめて知ったような印象を受ける。というか本人が70歳を越えて仕事をしているのだからある意味無理ないのかも。にしても、この年齢でこの知力という点にも大いに力づけられる)
・だから所得再分配策を適切に政治が打たなければならないのに何やってんだ? という歯がゆさ(このあたりではむしろ減らし続けている自民党の悪口をいくらでも書けそうなのだが、民主党がこういう所得再分配に関する提言も提案もせずに財務省とその愉快なエコノミストや御用学者(本人も国に雇われているのだから御用学者なところがおもしろいから、そういう書き方は本文ではしていない)の代弁しかしないところを糾弾する)
・それにしても雇用環境が大幅に改善しているのに、所得が伸びないのはなぜか? を、非正規雇用の伸びが著しいことで解説していくところはおもしろい。
・中小企業の代表者との懇親会でだんだん腹を立ててくるくだりはおもしろい(あまりにこちらの持っているイメージ通りなので。というか1970年代から変わってないみたいだ)
・政治と金融政策が正しく噛み合えば、インフレへ向かう。したがって企業は生産性を高めるための施策に投資する。人材の流動性が高まる。流動性が高まるということは、レイオフと再就職が平常化する。レイオフ前提となるのだから、失業給付はもちろん、そもそもインフレを前提とするのだから年金や生活保護、子育て支援、といった所得再分配政策は大前提。
ところが、そういった大前提となる政策をほとんどせずに(それでも定年延長策などはやっているわけだが、年金の受給年齢の引き上げという側面だけに財務省が注力するので全然マインドに対して効果がない)、やれ出口戦略(そもそも全然デフレマインドからの脱却もできていない現状で何が出口だという怒りとか)、やれハイパーインフレ(世界的な不安が増大すると世界中が円を買って円高になるは、デフレでものがだぶついているはのこの状況で何がハイパーインフレだ)と、無駄な論議に時間を使ってデフレマインドを長引かせているのは一体なんなのだという怒りとか。そりゃまともな政策が無ければ、企業は将来を不安視して内部留保を投資ではなく貯蓄に振り向けるし、国民は消費ではなく貯蓄に振り向ける。政治は何をやっているんだ! (というわけで、やっと日銀を離れて政治についてもフリーハンドで語れるようになったので語ったり=10%をやるとしたら、すべて子育て、教育、そういったことに振り向けるべきとか)
・安倍は存外まともな政治をしているのだなと思った(良いも悪いもひっくるめて一番の代表者に原因を求めるのが愚かだということは北朝鮮や昭和の日本を見ていても思うわけだが、まあ、そう見てしまうものだ)。
・理屈として読んでいて違和感を覚えるところはなかった。
アベノミクスの第3の矢の成長戦略というのは、本書を読んで、本来であれば所得再分配政策(と雇用環境改善による労働力の増加戦略としての、女性就業(子育て支援が含まれる)と老人就業)の意味だったと知った。なんか成長させる方法なんてわからないから企業にお任せみたいな言っているだけの矢なのかと思っていた。
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