著作一覧 |
郝景芳
見えない惑星: いろいろな惑星の話をする恋人たち。どの惑星も住人と歴史つまり意識と世界が微妙に噛み合わない。さわさわと進むが最も思弁的小説っぽい。
折りたたみ北京: 表題作だが、とにかく題名がすばらしくイマジネイティブだ。インセプションの夢から夢へ移動するところか? という感じだがもっとメカニカルだった。3つの階層が同一都市にお互い混じり合うことなく交代で生活するという構造が抜群だった。
物語はちょっとディック風だ。最下層の人間がふとした機会から最上層の世界へ潜り込み冒険しそこの人々と交流し、そしてまた元の世界に戻る。その意味ではどうということはない作品とも言えるのだが、とってつけたような(しかしそれ抜きでは物語が成立しない)家族関係がすごく良い味となっていた。
糖匪
作者の名前が不穏だ。作品名がコールガールだし読み始めると普通に日本では知らないけどクリスティアーネFとかアメリカの映画とかで良く知っている男の車に乗る娼婦の話っぽいが、額面通りに受け取って犬を売る少女の話として考えた方がおもしろい。
原題は黄色故事だから、艶っぽい物語で、わかりやすくコールガールとしたのだろうが(英語訳の題がそうなのだ)、主人公は世界皇帝なのかも知れないし、どうとでも読めるし、どうとでも読めるような書き方をするという技法なのだろう。ちょっと感傷的過ぎる気はしたが、悪くなかった。
程婧波
蛍火の墓:これは普通に傑作だと思った。ちょっとアーシュラ・K・ル・グィンを思わせなくもない、歴史とそれを統べようとする女王の物語と言えなくもない。良い作品だった。
劉慈欣
円:すごい傑作。秦の始皇帝が始皇帝として即位するまえの政だった時代の荊軻の暗殺失敗の故事と徐福に日本へ不老不死の薬を取りに行かせた故事を合成して全然違う歴史物語を作っている。
とにかく気宇壮大で、300万人(都民の1/3だ)の秦兵が壮麗な陣列を組む光景を想像するだけで胸熱だ。チェンカイコー(大閲兵や人生は琴の糸を想像するわけだがそれでもたかだか数100人)か角川春樹(当然天と地をを想像するわけだが、こちらもたかだか数100人だろう)に300万人を与えて映像化したらどれだけ素晴らしいものが観られるだろう。
Eテレの大科学実験で音速を調べるというのがあって、オペラ歌手の前に人間を1列に延々と並べて、声が聞こえたら手旗を上げるというのを望遠で撮影したのがあった。
たかだか86人、1.7kmでも手旗が順に上がっていく様の抜群のおもしろさ、それを300万人で行うようなものだ。すげぇ。死ぬ前に一度はこの目で見てみたい。
神様の介護係: こちらも普通にしかし抜群におもしろい。とにかくストーリーテリングの腕前は圧倒的な作家だ。
地球に生命をもたらした神様が、自分たちにとってはブラックボックスと化した製造物の老朽化を前に地球人に世話を求めにやってくる。最初は歓待した地球人たちで、1世帯あたり1人の神の世話を全世界で行うことにする。ここ、中国の田舎町でも当然のようにそれが行われる、のだが、段々地球人たちは役に立たない神たちに腹が立ってくる。主人公の気の弱い男だけは神を大切にしようとするのだが、妻も父親も子供も家族全員が神を虐待する。ついに、主人公は神と一緒に家出をしようとする。
父親が、「おれたちを置いて出て行くだと? 育てた恩を忘れたか?」と言うと、初めて言い返す。「父さん、育てた恩を忘れて神を追い出すあんたがそれを言うか?」
ただ、最後にSFっぽい終わらせ方をしようとあれこれどうでも良い設定を出しまくっておもしろさを台無しにしてしまった感はある。が、抜群におもしろいことに変わりはない。
実に良い読書体験をした。
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