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日々の破片

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2021-02-15

_ 天国にちがいない

初見となるが、エリア・スレイマンというパレスチナの作家の映画を観に、有楽町のヒューマントラストシネマ。

場内ガラガラだったが、えらくおもしろかったし(文法はコメディなのだ)、感銘も受けたし、いろいろ思うところもあった。

最初は寸劇で始まる。神父が(結婚式かな?)を先頭にでっかな磔刑像を担いだ人々が礼拝堂に入ろうとすると、打ち合わせでは内側から開くはずの扉が開かない。中から寺男の開けないぞ、開けたければ力ずくで来いという声が聞こえてくる。神父がノックする。寺男が生意気を言う。何度か繰り返した後、神父は裏口へ回って礼拝堂に入る。争う音がして、寺男が逃げ出す。神父は何事もなかったかのように元に戻り、扉を開ける。

タイトルが出る。

始まると、眼鏡と白い顎の無精髭が少し伸びたような雰囲気がおれの父親を思わず想起するのだが、男が淡々と生活する姿が始まる。

ベランダで煙草を吸いながら果樹園を見ると、勝手にレモンを捥いでは籠へ入れている男がいる。男は視線に気づくと、おれは隣家のものだと言う。

また、淡々とした日常描写。

ベランダで煙草を吸いながら果樹園を見ると、レモンを捥いでいた隣家の男が、枝を切っている。間伐したほうが果物が良くつくんだ。

また、淡々とした日常描写。

旅支度を始める。室内の観葉植物を考えた末に、レモンの木の手前に植える。

飛行機に乗ってパリ(というのは見ればわかる)に着く。カフェに腰かけて人々のトラブルを眺める。

ルーブルのピラミッド。

ホテルの向かいはアパレル企業らしい。鏡にこちらが映る。

映画会社のプロデューサのところへ行く。パレスチナの状況を映画化するのは弊社にもふさわしい企画ですね。から延々と話し始め、最後に、というわけでお引き取りください。

淡々と出て行く。

ホテルの向かいはアパレル企業らしい。明かりがついていて黒人の女性が掃除をしている。(道路でも掃除をしているのは常に黒人だというのが何度も出てくるが、実際にそうなのだが、しかし意図はあるのだろう)

(最後のクレジットを見ると、パリの後にモンレアルへ行ったようだが、それは気付かなかったし、カットしたのかも)

ニューヨークへ着く(見ればわかる)。イエローキャブの運転手の黒人の巨漢に、どこから来たんだ? パレスチナ。おお、そうか。この稼業は長いがパレスチナ人を乗せるのは初めてだ。カラファト! (アラファトを知っているが覚え違いしているということかな?)

バーに入る。横に腰かけている男が喋る。普通、酒を飲むのは忘れるためだ。ところがパレスチナ人は、覚えているために酒を飲む。

映画会社の受付で、知り合いらしきスペイン人かな? の監督が話しかけてくる。受付の女性に追い出されそうになるが、スペイン人の監督が、この人はスレイマンだといって押し返す。なんか出資してくれるらしいんだけど、アメリカの会社はくだらない注文が多いから、あまり条件がうるさかったら断るつもりなんだ。

エイスマンの番になる。出資はしません、お引き取りください。

家に帰る。

隣家の男が、観葉植物に対して水を撒いている。

おしまい。

構図が線対称をわざとずらしたようなものが多用される。観葉植物がある部屋がそうだし、ホテルの向かいもそうだし、バーでもそうだが、完全な対称ではなく、必ずどこかしら違うものが置いてある。

傍観者的に淡々とあちこちをふらふら歩いては少しずつ同じことの繰り返しが変容していき、他者の他愛もない話を聞かされるという点で、ジャームッシュの初期作品を連想する。

パーマネント・バケーション (字幕版)(グリス・パーカー)

だが、絶対的に沈黙を守り、すべてにおいて淡々と傍観者的である姿には、ガッサンカナファーニをどうしても想起せざるを得ない。

ハイファに戻って/太陽の男たち (河出文庫)(カナファーニー,ガッサーン)

沈黙したままというのが、政治的な声明なのだろう。

後で友人に聞いたところ、キン・フーに影響を受けたそうだ。なるほどそれもわからないではない。

初期の作品では、カンフー映画のポスターから出てきた東洋人の女性がヌンチャクを振り回してイスラエル軍と戦う(を、本人は無表情で沈黙を守ったまた眺める)そうだ。重房信子だな。


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