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友人と新宿のTOHOシネマズにウェス・アンダーソンのフレンチディスパッチ ザ リバティ カンザス・イブニング・サン別冊を観に行く。犬が島以来のウェス・アンダーソンだ。
木曜あたりに席を予約したら、通路際はすでに埋まっていたが、実際に行くとほぼ満席で驚いた。ウェス・アンダーソン、人気あるんだな。
事前知識なしだったが(物語はつまらないが技巧はおもしろいと小山さんから教えてもらっていたが、これだけの情報だと単におもしろそうだとしかならないなぜ)、なかなか意表を突かれなくもなかった。
物語は、カンザス出身の新聞社の社主の息子がフランスに行き、そこで発刊したフレンチディスパッチ・ザ・リバティという(カンザスの新聞の)別冊(最終的には10万部クラス)の最終号(社主の息子の死により廃刊決定)の内容という形式で、地元紹介記事、芸術記事、政治記事、料理記事の4つの短編から構成される。そこに自由自在に執筆者と社主の息子、執筆者と記事の内容の歴史的事実などのメタデータが織り交ざる。
フランスはアンニュイ(なんて名前だ)にあるフレンチディスパッチの社屋に隣のビルのピザ屋が配達に行く。ファサードの色使いがきれいだ。複雑な階段を上るため(カメラは正面に据えっぱなしで社屋が入っているアパルトマン全景のまま)姿が見えたり消えたりする。
カメラとピザ屋が社内に入り社員紹介。
ところどころ何言っているかわかると思ったらフランス語(全部は聞き取れないしおれの語彙は英語より少ないので意味を把握できるわけでもない)と英語(まったく聞き取れない)をあまり理由なく(行き当たりばったりとしか読めなかった)行ったり来たりしている。よくみたら、フランス語でしゃべるときは英語の埋め込み字幕がついていた。そういえば犬が島も似たような仕組みを導入していた。
地元紹介でジゴロを男娼と翻訳していたが紐じゃないのか。そういえば紐はマトロだったかもしれない。地元紹介では記者の自転車がガードレールに引っ掛かって記者が消えるシーンが挿入される。
次の美術欄は、刑務所で10年目にして創作意欲(というよりも作品を残したい欲)にかられた頭のいかれた画家、画家のモデルとなる看守(レアセドゥ(俳優はだいたい知らないのだが、この人はBIG ISSUEで読んだから知っていた))、画家の作品に惚れ込んだ画商、カンザスの美術収集家の物語。おもしろい。
政治記事は3月だが5月革命のカフェを舞台に、当局とチェスで交渉する男子学生、その両親の知人でもある執筆者、女子学生リーダー(ヴィアゼムスキーではなくオートバイ少女だ)、催涙ガスの物語。おれこれ好きだな。
それにしてもなぜ女性の活動家は全世界共通で同じような(北朝鮮の放送部員的な)話し方になるのだろう? それはそれとしてオートバイのシーンは美しい。
料理記事は、執筆者をゲストに呼んだテレビショーで語られる、警部の息子の誘拐物語。途中、バンドデシネっぽい(というかタンタンというか、とにかくフランスの漫画の絵柄なのだ)絵柄のアニメとなって追跡劇が行われる。車のボンネットにしがみついたレスラーが急停車で向かいの店に放り出されるが、賊が車に戻るとわざわざ再びボンネットにしがみつく。
「で、どこが料理記事なのか?」と編集長。
「コックが主役です」と執筆者。
「一言しか喋らんぞ」
「もっと台詞があるんですが、長いから廃棄しました」
編集長、床の上の丸まった紙を見る。
読み上げると、猛毒を食べたコックが何か教訓めいたことを病床で喋る。
「原稿へ戻しておけ」
おもしろかった。
# テキサス出身のウェス・アンダーソンがカンザスの新聞社の物語という点で、赤い河をなんとなく連想するが、もちろんまったく関係ない。
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