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これは実に名舞台だった。
というか、新国立劇場のベルディは当たりが多い。昨年のリゴレットは素晴らしかったし、高田智宏のドンカルロは最高だったし(2014年のドンカルロも抜群だった)。
今回は指揮が大野なのでまた陶酔しまくるのかと思ったが(この人のマーラーの交響曲は聴いてみたい)、曲が構造的なので頭をフル回転させたのか、実におもしろかった。序曲の波の音からして良い。
ルングはもちろん、シモーネのフロンターリも実に渋みがあって良い(というか、この人は昨年のリゴレットの人だ。良いバリトンが入ると劇が締まってとても良いものだな)が、びっくりしたのはガブリエーレのガンチという人で丸顔小男なので日本人テノールかなぁとか思いながら観ていたら歌いだすと実にきれいな声でびっくり。これぞイタリア人テノールという歌手だった。
シモン・ボッカネグラの問題は始まってすぐの老人二人(といっても25年前なので中年と初老なわけだが)の対話が長過ぎてうんざりすること(単に背景説明のためだよな、この部分は)だが、それさえ終わると、父と娘の邂逅をはじめとして見事な歌と次々巻き起こるクーデタの陰謀やら小物感があるがイヤーゴの前身に見えるパオロの陰謀(最後捕まって引っ立てられるところも同じだが、クレドには成りきらない陰謀の歌が小物)、テノールはどうしても頭が弱い役が多いパターンに乗って誤解しまくりガブリエーレの立ち回りとか、おもしろさも抜群。それにしてもフィエスコを投獄していたことを忘れていたらしいシモーネの台詞はおもしろい。
とても良いものを観られて満足し過ぎて、来週のチケットを終演後に買ってしまった。
終演後にオペラトークがあって、特にフロンターリの話がおもしろいが、大野の話は質問関係なく一方的に話すのだが、歌手の話を引き取って膨らませるところは悪くない。
このオペラの特徴は同じ曲を再現しないことにある。
と聞いて、なるほど、すると誰も曲を覚えなくて楽譜が売れないからリゴレットでは女心の唄を3回も繰り返すのだな(と思ったらリゴレットのほうが先なので逆に金は十分に得たからいろいろ試そうとおもったのかも知れない)とか考えていたら、が、最後に海へ想いを馳せるところで序曲と似たフレーズが入ると説明が続き、あー確かに、と納得する。
他に特長として、人物が現れるときの特徴的なメロディがなく、いきなり歌手が次から次へと出てきては歌いだす(なるほど、そう言われれば、歌っている最中に背後で次の歌手が闇に隠れて出てくる演出だったが、曲そのものと合っていたのだな)というような話もおもしろい。
とはいえ、荒涼たる風景ではリゴレットの嵐の直前に似た雰囲気の音響を入れたり、奮い立てばいつものズンタタタッタが始まるし、ベルディはベルディなのだった。
それにしても、良い舞台だった。満足しまくった。
演出は、惑星終末の光景に見える。アルマゲドンの夢ではないが、合唱団というか民衆は放射能防護服か宇宙服を着ている。空には生きたクレーターを持つ衛星が今にも地上に激突しそうなまでに近づいている。
が、最後、衛星は遠くに去り、太陽を蝕して終わる(蝕なので良い前兆とは思えないが、それは別の物語となる)。
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